移り変わる「メンヘラ」の意味。この10年で「メンヘラ」の使用法はどのように変わったのか

yN_aRboj

当メディアの名前は「メンヘラ.jp」である。
気づけば皆が知っていたこの「メンヘラ」という言葉は、どこで生まれ、今までどのように使われてきたのだろう。

前回の記事では、2ちゃんねるのメンタルヘルス板で「メンヘラ」が生まれ、メンタルヘルス板の外まで広まっていくさまを見てきた。
(参考リンク:「メンヘラ」という言葉の歴史 2ちゃんねるで「メンヘラ」が誕生するまで

当初、メンヘラは単なる「メンタルヘルス板の住人」としての「メンヘル」「メンヘラー」であった。しかし途中から、「(メンタルヘルス板の住人に代表されるような)心の健康に問題を抱えた人」という意味へと変貌を遂げていった。それが現代でも普通に使われているところに、この言葉のさりげない普遍性の強さを感じる。

一方で、現代においては「メンヘラ」というと「超めんどくさい人」「かまってちゃん」というような意味に捉える人も少なくない。それも、なぜかメンヘラといえば女、というような誤解も生じている。いつからこのような誤解が起きたのか。どう広まっていったのか。

それを知るために、ここでも主に2chでの「メンヘラ」の用法を年代別に観察する。さらに、SNSによって大衆に向けて顕在化した「メンヘラ」的なるものの例を挙げ、「メンヘラ」の用法が曲解されていった一つの結末を見ていく。

 

メンヘラ板の外、主にニュー速VIP板での「メンヘラ」用法(〜2008)

2005年「mixiでへんなメンヘラに絡まれたんだけど」というスレッド。
http://ex11.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1127660704/

20050926
スレッドを立てた人のみならず、VIP板の住民たちが普通に「メンヘラ」を使っている。このスレッドでは「メンヘラー」が1回しか使われていないことにも着目したい。
そしてこのスレッドの時点で、「メンヘラ」と「女」が結びついている人がいる。そしてそれに異議を唱える者も特にいない時代であることが窺える。当然、男性のメンヘラも存在するはずなのだが、なぜか彼らにその認識はない。
200509262

2006年
「メンヘラにありがちなこと」というスレッド。
http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1138377910/

20060128

「ありがちなこと」を「行動の特徴」と読み替えてこのスレッドを見てみると、メンヘラの行動の特徴として

  • 多重人格であることを申告してくる
  • 死をほのめかす
  • かまってちゃん

などの項目が挙げられている。また、2006年初頭の時点で「エセボダ」という言葉もメンヘラの言い換えとして提案されている。エセボダとは「似非ボーダーライン(境界性パーソナリティ障害)」を指していると思われる。この時点ですでに「メンヘラ=境界性パーソナリティ障害のような行動をとる人、または度の過ぎたかまってちゃん」という共通認識があるようだ。

2007年
「メンヘラちょっと来て」というスレッド。
http://ex17.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1168743382/

ここでも「メンヘラ」と「女」を結びつけた書き込みが散見される。以下はその一例である。
20070114

また、境界性パーソナリティ障害(当時は人格障害と呼ばれていた)の存在も認識されている。このころ、境界性パーソナリティ障害を持つ人のことは「ボーダー」や、その略称の「ボダ」などと呼ばれていた。
200701142jpg
387氏へ回答するとするなら、「境界性パーソナリティ障害もメンヘラの一部ですよ」となるのだが、どうも境界性パーソナリティ障害の存在がメンヘラの中でも飛び抜けて印象的であるようだ。

 

2008年
「メンヘラと付き合ってたらノイローゼになった」というスレッド。
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1226138073/
20081108

注目すべきは、こちらの書き込みだ。大胆にも「メンヘラはある種の境界性人格障害」と断じている。逆である。「境界性人格障害はある種のメンヘラ」である。
200811082

これらの書き込みを見るに、2008年までには、

  • メンヘラ=境界性パーソナリティ障害的な人、めんどくさい人、かまってちゃん

といった用法が一部で確立されていたことが伺える。

しかし、これはあくまで2ちゃんねるの中での出来事だ。

2006年頃には、2ちゃんねるのスレッドのいいところだけ吸い上げて掲載した「まとめブログ」なるものが大量に発生し、2ちゃんねるに直接アクセスしてこなかった人々にも2ちゃんねる的なもの、そしてメンヘラという言葉が届いていくようになった。

2016年現在、「メンヘラ」という言葉はTwitter上でもごく普通に見かけるようになってしまった。メンヘラがあまりにも一般的な用語になってしまった挙句、メンヘラ.jpというメディアが生まれたりもした。

それでは、2ちゃんねるを飛び出した「メンヘラ」は、SNSではどのような存在になったのか。
SNSの中でもかなり大規模であるTwitterの中から、「メンヘラ」の名を自ら冠した「メンヘラ少女」、そして「メンヘラ神」のツイートを抽出して見ていく。

 

SNS(主にtwitter)の登場によるメンヘラ用法の変遷(2010年代)

2006年3月21日、Twitterが登場。スマートフォンの普及などにより、今までインターネットを使ってこなかったような層がインターネットにアクセスするようになってきた。その弊害か、いわゆる「バカッター」のような、ネットリテラシーの低さと倫理観の低さの最悪なマリアージュがTwitter上で実現していく。

また、それまで個人サイトやブログなどで細々と「自己表現」していたメンヘラたちが、Twitterに活動の場を移し始めた。

例えば、メンヘラ少女(https://twitter.com/menherashoujoというアカウントがある。このアカウントでは、「メンヘラ少女」という心の健康に問題を抱えていそうなキャラクターの切実な想いを可愛らしいイラストにして、毎日1枚ずつ投稿している。膨大な量の絵から、作者のメンヘラ観をうかがい知ることができる。以下のツイート及びイラストだけではその全てを説明することはできないが、少なくとも「自傷行為をする」「死にたさを抱えている」「過剰なまでに他者に必要とされたいと思う」「他者から嫌われることを極端に恐れている」などの人物像が浮かび上がる。

さて、Twitter上で最も有名なメンヘラとは、おそらく「メンヘラ神」であろう。もともとはてなブログ等(http://kasuusagi.hatenablog.com/)で自身の体験を面白おかしく綴った文章を掲載していた彼女は、自身の感性や文才で、自らの悲惨で過激な出来事を楽しく綴り、時には鋭いメンヘラあるあるを披露し、時には自虐し、時には自身の死をほのめかし、時には自傷行為の写真を掲載するなどして、自身を「メンヘラコンテンツ」として売り込んでいった。以下はそれらのほんの一例であ
menhelashin1menherashin2

そんなある日、メンヘラ神は、親しくしていた男性から「お願いだから死んで。」「飛び降りれば死ねるじゃん」などと矢継ぎ早にLINEで告げられ、その数時間後に自ら死を選んでしまった。彼女が最後にTwitter上に残したLINEの履歴などから、親しくしていた男性は自殺教唆の容疑で逮捕された。LINEでの発言も自殺教唆になりうること、そして遺されたメンヘラ神のツイート群があまりにも過激であったことから、ある種のスキャンダル的な話題としてインターネット上で取り扱われた。
こうして、Twitter上で生まれたメンヘラ神の死は、彼女に自殺を教唆した男性が逮捕されたことで大きなニュースとなり、テレビでもその顛末を報道されるなど、Twitterの外にも多大な影響を及ぼした。

皮肉にも、メンヘラ神は「メンヘラ神」という自身の名前とツイートによって、「(境界性パーソナリティ障害的な)メンヘラ」を広めていく一因となったのではなかろうか。

 

「メンヘラ」という言葉の本当の意味

「メンヘラ」という言葉はそもそも「メンタルヘルス(心の健康)に問題を抱えた人」という意味で用いられていたことは前回の記事でも示した通りである。

しかし、メンタルヘルス板から「メンヘラ」という言葉が流出したことをきっかけに、なぜか「メンヘラ=めんどくさい、かまってちゃん、境界性パーソナリティ障害っぽい人、手首を切って見せてくる、病んでるアピールをしてくる、束縛が異常、鬼電してくる、ビッチ、だいたい女」というような、誤解に基づいた用法が広まってしまった。

一体なぜだろう。今回「メンヘラ」の用法の変遷を見てきた私の考えでは、こうだ。

メンヘラの中でも「境界性パーソナリティ障害」の特徴を持つ人の行動は、どうやら健常者に対してはとても大きなインパクトを与えてしまうようだ。そのインパクトを受け取ったメンタルヘルスに無頓着な人々が、「メンヘラ」という言葉を面白がって雑に扱い始めた。

境界性パーソナリティ障害を持つ人は、その特性から、どうしても他者へのアクションが多くなりがちであったり、他者にアクションをしない人でも自傷行為や自殺未遂などの激しいイベントを起こしがちだ。なんせ、当事者はそうしないと今この瞬間に生きていられないのだから仕方がない。これもまた心の健康の問題の一つだ。

そのようなことを知らないたくさんの人々が当事者たちを揶揄し、ただ「過剰に病んでいて迷惑な人」というニュアンスで「メンヘラ」という言葉を使い始めたのではなかったか。

今、誰かが「元カノがメンヘラでさw」などと言う時、本当に元カノはメンヘラだったのだろうか?たまに夜に突然電話をしてくるとか、よく泣くとか、他の女と遊んだだけで嫉妬するとか、そのくらいならどんな人にもよくあることだ(もちろん度が過ぎればメンタルヘルスのチェックが必要になる)。それなのに、話の誇張のためだけに、あまりにも雑に「メンヘラ」を量産してはいないだろうか。そうしてメンヘラは誤った用法で量産されてきたのではないか。

その結果、メンヘラの一部である境界性パーソナリティ障害が「メンヘラ」という新しい言葉・概念を飲み込み、境界性パーソナリティ障害のような特徴を持つ人こそがメンヘラ、という誤った図式を生み出してしまったのではないか。

そうは言っても、やはり「メンヘラ」は「2ちゃんねるのメンタルヘルス板を必要とするような人」、つまり「メンタルヘルス(心の健康)に問題を抱えた人」という意味であることに変わりはない。心の健康の問題は幅広い。うつ病や双極性障害、統合失調症、摂食障害、強迫性障害、発達障害、人格障害などなど、病名・障害名を上げていけばキリがない。当然、誤った用法で「メンヘラ」の代名詞のように言われている境界性パーソナリティ障害の人も「心の健康の問題を抱えた人」に含まれている。「メンヘラ」は、メンタルヘルスに問題がある人の総称であり、包括的な概念なのだ。

つまるところ「メンヘラ」とは何なのか。簡単に図にすると、いささか乱暴ではあるが、以下のようになる。

menherag

このように、「メンヘラ」という言葉はこの10年で概念を変容させ、現在では少々問題のある用法も拡散してしまった。しかし、今ようやく「メンヘラ」の本来の意味は「心の健康に問題を抱えた人」であることを再確認できたわけだ。

 

メンヘラ.jpでは「心の健康に問題を抱えた人」用法でいきます!

さて、メンタルヘルス板で生まれた「メンヘラ」という言葉の意味が、当初の「心の健康に問題を抱えた人」から「激しいかまってちゃん」「めんどくさい人」「境界性パーソナリティ障害的な人」に形を変え、2ちゃんねる内部、外部、そしてSNSに拡散していくさまを年代を追って見てきた。

現在では「メンヘラ」は以下の二つの意味で用いられている。

  1. メンタルヘルス(心の健康)に問題を抱えている人
  2. 暗めの面倒くさい人、かまってちゃん

こうして見てみると、もはや「メンヘラ」=かまってちゃん、という誤った用法が広まり切った感があるが、意外にも「メンヘラ」=心の健康に問題を抱えた人、という本来の用法も根強く残っている。メンタルヘルス板は今日も相変わらずメンタルヘルスの問題全般を取り扱っているし、メンヘラ.jpでも「メンヘラ=心の健康に問題を抱えた人全般」という用法を一貫して取り扱っている。「記事がボーダーっぽくないからメンヘラを名乗るな」というクレームも特にない。

メンヘラとは心の健康に問題を抱えた人を指す、という本来の意味は、メンタルヘルス板で「メンヘラー」が生まれた2001年から2016年現在まで変わっていないのである。

どんなに時代が変わっても、人が生きる限りメンタルヘルスの問題は尽きない。そして10年前に比べれば、双極性障害や統合失調症、摂食障害、不眠症、発達障害などの病気についてもかなり周知されてきている。誰もが「メンヘラ」になり得る時代だからこそ、「メンタルヘルスに問題を抱えている人」としてのメンヘラは存在し続けるのだ。

メンヘラ.jpでは今後とも、心の健康に問題を抱えた人への暇つぶし・共感・処世術を提供していく所存だ。

 

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2.移り変わる「メンヘラ」の意味。この10年で「メンヘラ」の使用法はどのように変わったのか
3.「メンヘラ」ってどういう意味? メンヘラという言葉が生まれるまで(記事1,2のまとめ)




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会社員時代の自殺が未遂に終わり、いろんな意味で「サービスで生きてる」無職。生きてる以上、楽にやっていきたい。少しでも死にたい人のお役に立てればと思います。

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