現代の魔窟!ハプニングバーへ行った話

体験談 090

ある年の夏、深夜。私は都内某所のハプニングバーにいた。

私はなぜかチャイナ服を着て、パンツ一丁の男たちに囲まれ、鳴り響くクラブミュージック風の何かを聞きながらひたすら煙草を吸い、酒をあおっていた。

いや、「なぜか」ではない。男たちがパンツ一丁なこと以外は全て自業自得である。

 

■ハプバーに行くことになった経緯


そもそもハプニングバーって何?という方は、あんまりググったり周りの人に聞いたりせず、「縁のない場所だな」と思いながら読み飛ばすことを勧める(ちなみに、この記事は18才以下の方でも読めるように限りなく直接的な表現は避けたつもりだが、やはりあんまり読まないほうが望ましいと思われる)。ここに縁がない人の方が圧倒的多数であろう。

私にとっても縁のない場所のはずだったが、ひょんなことから縁ができ、遊びに行くことにしたのだ。

「ひょんなこと」では説明が足りないかもしれない。

ことの発端は、私の友人(なかなかのメンヘラ)がハプバーで働き始めて「私みたいな人でも働きやすいし、死にたい死にたい言ったり突然奇声を発したりしてもなんとなく許されるからすごくいいところだよ!一回遊びに来て!」と言われたことであった。それで、友人がシフトに入っている日を教えてもらって遊びに行くことにした、という経緯だ。

私も「社会で浮いてる人間でも過ごしやすい場所なのかな?それなら一回行ってみようかな」と考え、とりあえず行ってみることにした。

事前情報として「大人の遊び場である」「いろんな人がいる」ことをなんとなく知っていたので、人見知りの私にとってはあまりにもハードルが高すぎた。それでも、私は絶対何もしない、友達が働いてるから遊びに行くだけ、好奇心、人生経験、人生経験……と己を納得させ、剤をちょっと飲んで落ち着いてから、バーに入った。

身分証明書を出し、入店する。女性の店員さんから、店内のルールや設備についての説明を受け始める。

すると、どこからか女性の声が聞こえる。人間よりは動物に近い方の声がする。マジでこういう感じなのか……。私は、目の前の店員さんの話を聞くことに集中した。店員さんにも女性の声は聞こえていたようで、私たちはできるだけ核心を避けながら「ああ、やっぱりああいう感じの方もいらっしゃるんですね」「そうですね」などと話した。

 

説明が終わり、私は酒を飲む部屋に案内された。薄暗い照明、その割にカラフルな店内、やたらゆったりできそうなソファー、パンツ一丁の男たち、薄着の女たち、が、見えた。一瞬「帰ろう」と思ったが、せっかくなので酒だけでも飲もうとバーカウンターの向こうを見やると、私とハプバーに縁を作ってくれた友人が私に気づいて、手を振ってくれた。私は安心して、バーカウンターに座り、何かの酒を作ってもらうことにして、煙草に火をつけた。

すると、即座に隣の椅子に何者かが座った。「お姉さん、煙草吸うんですか?すみません、一本だけもらえたりとか……」と話す男はパンツ一丁だった。情報量が多すぎて混乱した私は「あ、はい、一本なら」と答えて煙草を一本あげてしまった。後で、友人に聞くところでは「あの人、ずっと人に煙草もらってばっかり」とのことだったので、煙草乞食と名付ける。

煙草乞食と話していると、私の右に服を着たおじさんが突然やってきて、話し始めた。会話をすると、必ず噛み合わない返答をしてくる人だったので、「これはもはや揶揄うぐらいの気持ちで話したほうが良いのでは」と私の脳が判断した。だからたくさんデタラメを喋った。

途中で、バーカウンターの向こうから友人が「せっかくだから何かコスプレ着ない?」と勧めてきた。今思えば何が「せっかくだから」なのか全然わからないが、私は「そうだね!せっかくだし、何か着ようかな。どれがいいだろ~」と言って壁中に吊るされたドンキで売っていそうなコスプレ服を見る。

セーラー服、AKB風の服、ナース服、軍服テイストの服……。

「チャイナとか似合うんじゃない?」という噛み合わない男の発言で、私はチャイナ服を着ることになった。一人で着替えスペースへ行き、チャイナ服を着ると、丈がほぼパンツ隠れるくらいしかないことに気づく。それでも「何かみんなパンツ一丁だし、私もこんぐらい出すのは別にいいか、所詮パンツだし、服は着てるし、もういい大人だし……」とぼんやり思いながらミニチャイナ服を着て、バーカウンターへ戻ると、男たちの歓声が上がった。

露出度が上がれば何でも良かったらしい男たちは、「ねえちょっとあっちのソファーで話さない?」と誘ってきたので、もうどうにでもなれ(ただ絶対に行為に及びたくない)という気持ちでソファー席へ移動し、しばらくは煙草を吸いながら談笑していた。噛み合わない男は、私が完全に「ただの暗い変な奴」だと理解したのか、早々にどこかへ消えていった。

一方、煙草乞食は粘っていた。遠くで女性の声がする。煙草乞食は「ねえ、声聞こえる?ちょっと見に行かない?」と言ってきた。見に行くかどうか真剣に考えた私は、どう考えても「その光景」を見たくなかったので、断った。ここでも煙草乞食は強い粘りを見せた。

「えー?でも他人のそういうのって興味ない?」
「ないですねー」
「ないのー?でも(ry」

これを数回繰り返した。他にもいろいろなことを話したが、一番印象的だったのは「お姉さんはああいうこと好きなの?」という質問に「うーん、……相手によりますね」と答えたところ、「あー。……あー相手によるか……お姉さん、それうまいね……」とあからさまにテンションが落ちていたところである。

うまい返答かどうかは知らないが、「相手による」という返答はおそらく何事に関しても自分の勝手にできる上に相手を悩ませるものだと思うので、今後はこういう曖昧な回答で他人を苦しめようと思った。

 

■パンツ一丁の男たちに囲まれた結果、即席の地獄が形成される


さて、煙草乞食と不毛な会話を続けている間に、パンツ一丁だったり、上はTシャツを着ているのに下はやはりパンツのみ、といったスタイルの男性たちがそっと周りの椅子に座って会話に入り込んできていた。ざっと5〜7人くらいだろうか。

しかし私は完全に根暗でコミュ障な上に、酒を飲んでいてますます自分勝手になっていたので、興味のない話題はすぐに適当に終わらせてしまっていた。パンツモロ見せの男たちに対して、会話が続かないことがなんだか急に申し訳なく思った私は、初対面の人相手に質問攻め作戦に出ることにした(あんまり良くない手だと思う)。

そのうち、私がコミュ障だと察したっぽい胡散臭そうなおじさん(Tシャツ+パンツ一丁)が初心者っぽいおじさん(Tシャツ+パンツ一丁)に話を振り始めた。正直ありがたいと思った。しかし、これが思わぬ事故を引き起こす。

胡散臭「今日はどうして来たんですか?」
初心者「僕ですか?……実は、本当に今日、会社を辞めまして……。ちょっと堅めの職業だったんですけど」
別のおじさんA「そうなんですか?僕も最近会社を辞めたんですよ」
初心者「そうだったんですか……」
別のおじさんB「俺なんてもうとっくに働くのはやめちゃったよ」
私「……」

妙にしんみりした雰囲気になっていく。急に頭が冷静になる。

ここはハプニングバー、調子に乗って終電を逃した私、ミニチャイナから出た腕には若干の傷跡、パンツモロ出しの男たち、パンツ越しに若干元気になりかけたそのうねりが見えたり見えなかったりしている、明らかに間抜けな姿をして集まる男たち、そして彼らは会社を辞めてしまった男たちでもあって……。

若干の地獄の様相を呈してきた。完全に空気が淀んでしまっていた。

そんな時、少し離れた場所にある謎のスペースからバシッシパンッという音と、きゃっきゃという笑い声が聞こえてきた。

ハプバーで仲良くなった男女が、鞭で叩いたり叩かれたりしながら遊んでいたようだった。

 

■知らないおっさんのケツを鞭で打つ


鞭。そうか、ここには鞭があったのか!

突然だが、私は武器が好きだ。厨二病が極まっているので、武器が好きだ。100均の好きなコーナートップ3に「子供用のおもちゃコーナー」がある。あそこには謎の武器がたくさん置いてある。マシンガン(の、おもちゃ)や拳銃(の、おもちゃ)、刀(のおもちゃ)までなんでも手に入る。そしてここへきて、鞭。バラ鞭。

私のテンションが急速に上がった。目が輝いていたに違いない。それを察した誰かが「鞭、打ってみます?」と助け船を出してくれた。私は「打ちたいです~!鞭、めっちゃ打ちたいです!!」などとゲヘゲヘ言いながら即座に立ち上がり、「俺打たれてみたい!!」と元気よく立候補した煙草乞食と鞭を打つスペースへ移動する。

店員のお姉さんから、鞭の打ち方、鞭を使うときの姿勢やコツ、鞭で打ってはいけない部分があることなどを実演を交えながら教えていただき、いざ、実践。

腰を落とし、振り上げた鞭を、円を描くように思いっきり振り下ろす。
ばしんっという音がして、煙草乞食は「いてえ!!」と叫んだ。目標にしていたケツから少し外れてしまった気がする。私は、痛くなかったかな?大丈夫かな?という心配の感情と、めっちゃおもしろ~~い!という感情との間で揺れた。

「大丈夫ですか?なんか怪我とかないですか?」と訊いたところ、「全然大丈夫っすよ!もっとやってください!」と言われたので、横で見ている店員のお姉さんのアドバイスを受けながら、もう一度叩いた。すると、今度はスパンッとても良い音がして、「イテッ」という声がした。もう一度叩く。もう一度。もう一度。

すると、それを遠くで見ていたパンツ一丁のおっさんがやってきて、「僕も叩いてください」と仰ったので、もっと叩いた。パンツ一丁のおじさんは、尻を叩かれながらも「上手だね~」「今のいいね!」と逐一報告してくれる。店員のお姉さんにも「どんどん上手くなってる!」と褒められて、嬉しくなって、また叩いた。楽しい。一生叩いていたい。

知らないおっさんの、パンツ一丁のおっさんのケツを鞭で叩きまくる。この光景は明らかにおかしい。それでも、こんなに楽しいこと、他にあるんだろうか?私は鞭でおっさんのケツを叩いて楽しい上に褒められてもっと楽しい、おっさんはケツを叩かれて楽しい、Win-Winの関係だ。こんなに楽しいこと、他にあるんだろうか?

……あってほしい。あってくれ、頼む。

 

■ハプバーにはすべてどうでもよくなるような何かがある


その後、冷静になり、HPもMPも限界になったので、友人に挨拶をして店を出て、ネカフェで始発を待った。フラットシートに胡座をかいて紙コップからオニオンスープをすすりながら「ハプバー、単なる魔窟じゃねえか」と思った。

思い出せる光景は、最近会社を辞めたパンツ一丁の知らない男たち、薄着の女たち、カップル、どこかから響く女性の声、カウンターに飾られていたイチモツを模した玩具、無意味にコスプレをした私、知らないおっさんを鞭で叩いてゲラゲラ笑う私、次から次へと四つん這いになってやってくるパンツ一丁の男たち、だ。これが魔窟でなければなんなのだろう。

それでも、なんだかんだ言ってハプバーは面白かった。お店側も女性に嫌な思いをさせる男性へはとても厳しく対応していらっしゃるようだったし、ほとんどの客がしっかりとルールを守っているからこそ平和にやっているように見えた。

一見、魔窟にいそうな人々にしか見えない彼ら(そして私)が「建前の社会」では絶対に見せられない様々な自分を解放し、できる範囲の好き勝手をし、酒を飲んで語り合う……。

ハプニングバーという現代の魔窟。そこには、自分がメンヘラであることなんて果てしなくどうでもよくなるような、真の多様性があった……。

 


【執筆者】
090 さん

【プロフィール】
会社員時代の自殺が未遂に終わり、いろんな意味で「サービスで生きてる」無職。生きてる以上、楽にやっていきたい。少しでも死にたい人のお役に立てればと思います。
Twitter:@oqo_me_shi

 


【募集】
メンヘラ.jpでは、体験談・エッセイなどの読者投稿を募集しています。
応募はこちらから

この記事のカテゴリ・タグ

体験談 090
このエントリーをはてなブックマークに追加

1件のコメント

ヒロ 返信

なんかすごくおもしろかったよ~
感動した!
世の中一枚はがせば皆メンヘラなんだね
明日も一日生きていけそうです
ありがと!

コメントを残す

返信をキャンセル
返信先コメント

captcha