【書評】ポケットの中のレワニワ(伊井直行)

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皆さんこんにちは。多聞です。

今回はメンヘラ文庫で伊井直行『ポケットの中のレワニワ』を紹介します。

メンヘラ文庫は読んでほしいと思う本を紹介するコーナーです。これまで、090さんが南条あや『卒業式まで死にません』と一田和樹『サイバー戦争の犬たち』を紹介し、████さんは卯月妙子『人間仮免中』を紹介しました。

 

■作者と本作品について

伊井直行は『草のかんむり』で、1983年に第26回群像新人文学賞を受賞してデビューしました。

1989年に「さして重要でない一日」で野間文芸新人賞、1994年に『進化の時計』で第22回平林たい子文学賞、2001年に『濁った激流にかかる橋』で第52回読売文学賞を受賞しました。芥川龍之介にも4回ノミネートされている、いわゆる純文学をメインに活動している作家です。

作風はデビュー作から幻想的な作風の作風が多いです。その一方で、「単に会社を舞台とし、会社員が主要な登場人物として登場する小説ではなく、主要な登場人物として会社員の存在が不可欠の小説」と定義した、会社員とは何かをテーマとした会社員小説というジャンルの小説も執筆しています。

『ポケットの中のレワニワ』は講談社創業100周年記念出版の「書き下ろし100冊」の1冊として、講談社から2009年5月21日に上下巻で刊行されました。また、2012年4月13日に文庫版が刊行されました。

2009年5月といえば、ベストセラーを記録した、村上春樹『1Q84』が刊行されたこともあり、記憶に残っている方もいるかもしれません。両作品の刊行後、『1Q84』よりも『ポケットの中のレワニワ』を勧めたり、様々な形で『ポケットの中のレワニワ』に言及する評論が発表されました(『村上春樹『1Q84』をどう読むか』の「リトルピープルよりもレワニワを」など)。

『1Q84』が話題になる一方で、『ポケットの中のレワニワ』に注目する界隈もあったのでしょう。

 

■あらすじ

仲間からアガタと呼ばれている主人公、アガタはある派遣会社の派遣社員として、電気部品会社の商品苦情電話を一手に担っている子会社にコールサービス係として派遣されています。

アガタが派遣されたこのコールサービス会社には正規社員として、派遣社員を指導し監督している女性上司がいました。

彼女はベトナム人との混血の美女で、なんとアガタが小学3年の時に同級生だった町村圭子こと、ティアンと呼んでいた女生徒でした。

当時の住まいは向洋台団地と呼ばれていて、東南アジアからの難民家族が多く住んでいる住居で、団地の3分の1近くがこれらの人々でした。

彼女とは子供のとき一度手をつないで散歩したことがあります。アガタは忘れていましたが彼女は覚えていました。

 

アガタの父親は当時高校の生物教師をしており、持ち前の茶目っ気から生徒に勉強の興味を持たせようとして冗談交じりに「レワニワ」という南洋の水陸両棲動物が近くに紛れ込んでいるらしいという話をしました。

一時は噂が子供たちの間に広がり、「レワニワ狩り」までするグループが現れました。

「レワニワ」についての言い伝えは、人の願い事を聞き入れてくれるがその代わりに人の姿になって人食い鬼となるとの話に発展していきました。

ティアンと再会することとなったアガタは彼女のテキパキとした仕事ぶりと自分への一種の好意を感じるようになっていましたが、ある時向洋台団地に住んでいた時の女友達に会ってから不審な行動をとるようになり、しまいには会社を辞めてベトナムに去ってしまいました。

彼女の後を追うべきか否か、と悶々としていたアガタはある日、身に付けていたショートコートの内ポケットに干からびた肉片のようなものが入っていることに気づきました。

アガタはこれこそ「レワニワ」だと考え、お湯に浸して蘇生させようとしました。アガタが寝入っていた間に「レワニワ」は蘇生しました。

アガタは夢うつつの中で、俺の人生に一体意味があるのだろうか、人は何のために生きているのだと自問しています。

「レワニワ」よ、お前が本当に人の願いを聞き入れてくれるのなら俺はこの答えが欲しいと言います。

アガタが目覚めたとき、そこには「レワニワ」の姿は消えていました。パソコンのスイッチランプが点滅していました。

起動させると、アガタ宛のアドバイスとして、恋のために生きるだけでも素晴らしいのではないかと、パソコンに書き残してありました。

そうして、アガタはベトナムへティアンを探しに行くことになります。

 

■登場人物

・アガタ(安賀多真一、ガタ)
『ポケットの中のレワニワ』の主人公です。ティアンからは「アガタ」、徳永からは「ガタ」と呼ばれています。電機会社のコールセンターで派遣社員をしています。派遣先のコールセンターで、小学校の同級生のティアンと再会し、徐々に彼女に惹かれていきます。

・ティアン(町村桂子、グエン・ティ・アン)
『ポケットの中のレワニワ』のヒロインです。アガタからは「ティアン」、徳永からは「町村さん」と呼ばれています。アガタとは小学校3年生の頃の同級生で、電機会社のコールセンターでアガタと再会します。ベトナム難民で、「金持ちの男をゲットする」とうそぶきながらも、心の底ではアガタを慕っています。向洋台団地に住んでいた時のベトナム系の女友達と会ったことがきっかけで、様子がおかしくなっていきます。

・徳永
アガタとティアンの上司です。本社の営業部とコールセンターの仲介役でもあります。頼りになる上司ですが、どことなく滑稽で頼りない面もあります。ティアンに惹かれているものの、男性としては相手にされていません。アガタのベトナム行きに同行します。

・コヒビト(福山充)
アガタの母の再婚相手の連れ子で、アガタの義理の弟にあたります。アガタを除いた家族には相手にされておらず、インターネットとギャルゲーの世界に引きこもってます。

 

■レワニワとは?

レワニワはインドシナ半島の奥地に生息する両生類と爬虫類の中間にあたる動物で、まだ詳しい生態は把握できていないため、生物学上の謎とされ、水辺で目撃されることが多いですが、陸上でも活動することができます。レワニワに話しかけると言葉を覚えます。また、レワニワは言葉を教えてくれた人の願いを叶える能力を持っています。しかし、レワニワに願い事をすると人間化して、怪物になってしまいます。

これはアガタの父親がベトナム人のクアンから聞いた話をもとにして作られたホラ話に過ぎなかったのですが、レワニワは団地の子供たちの心の中で生き続け、具現化します。

レワニワの干物を偶然手に入れたアガタは、それを蘇生させて願い事をしますが、レワニワは願い事を叶えず、その代わりにアガタの願いに対するアドバイスを文章に残し、ベトナム行きの飛行機のチケットを予約し、ティアンに会いに行けと促します。レワニワはその後、ベトナムでアガタと徳永をサポートしたりするなど作中で重要な役割を果たします。レワニワは作中におけるキーマンだと思います。

 

■作品のテーマ

『ポケットの中のレワニワ』はアガタとティアンの恋模様を主軸に物語が進行していきますが、同時に仕事、ワーキングプア、難民問題、ひきこもりなどの多種多様な現代社会を象徴する問題が重なります。

本作は作中に登場する団地と同様に、問題を抱えながらも現代を生きる難民たちの世界であり、また難民たちの物語であると言えます。

皆さんもぜひ読んでみてください。




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多聞

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社会復帰するために試行錯誤の日々を送る。読者の皆様のお役に立てる記事を書きたいと思ってます。

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