ADHDと「残業禁止ルール」の相性の悪さについて


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残業禁止は強者のルールなのでは、という話。

昨日話題になっていた記事について、かなり多くの議論があるので個人的にまとめたいなと思い筆を取ります。

どうも、賛成派も反対派も間違った前提を共有して議論を進めている気がするんですよね。

特に「効率の悪い発達障害者」という言葉がだいぶ誤解されているような感じがします。

元記事の著者である借金玉氏と同じ、いち発達障害(ADHD)当事者として、議論を整理したいなーと思っています。

 

元記事の主張をまとめてみよう

上の記事で著者(借金玉氏)は、ざっくり言うと

・自分(ADHD)は仕事の効率が悪い
・なので「残業禁止」のルールだと生き残れない
・「残業禁止」は強者のルールなのでは?
・ロスタイムとしてサビ残をさせてほしい…

的なことをブログで主張しています。

ADHD的には一読してすぐ意味がわかる文章で、「そうにゃんな~」となるやつです。

しかし、多くの反対意見が見られます。主なものは

・仕事が遅いからといって労働ダンピングは許せない!

という内容です。

確かに、直近の電通事件に見るように、過度な残業は職場の「空気」によって醸成されます。

一部の労働者が率先してサービス残業をしていれば「あいつを見習え」となりかねません。

そういった意味で「労働ダンピングは許せない」という対立意見も十分に納得できるものです。

 

…さてさて、

でも実は、この議論って全く噛み合っていないんですよ。

どこが噛み合っていないのか。

それは「(ADHDは)仕事の効率が悪い」という借金玉氏の言葉を、ほとんどの人が誤解しているからです。

 

ADHD特有の『出力が安定しない』問題

元記事を注意深く読むとわかりますが、借金玉氏は自分(ADHD)を「単純に仕事が遅い人」とは描写していません。少し引用してみましょう。

>>僕は仕事が遅いです。正確に言うと、アホみたいに早いときがごく稀にあり、それで帳尻を合わせるタイプです。これはもう生まれもった特質で、努力は常にしてるつもりなんだけど未だに治りません。

>>僕は作業効率にアホみたいなムラがあります。下手すると、作業効率が1桁違うなんてこともあります。決まった時間の 枠の中で定型発達者と競ったら、そりゃ負けるわけですよ

このように、氏は「ムラがある」という表現を使っています。

これがいわゆる、ADHD特有の「出力が安定しない問題」です。

くわしくご説明しましょう。

定型発達者は、仕事を一定のスピード、一定の作業量で行うことができます。

定型発達者Aさんの10時から16時の仕事を考えてみましょう。

1時間あたりの平均仕事量が100だとすると、Aさんは

10時:100
11時:110
12時:90
13時:80
14時:90
15時:100
16時:130

みたいな感じで仕事を進めることができます。ブレはありますが、大きくはなりません。
しかし、これがADHDのBさんだと次のようになります。

ADHDのBさん、Aさんと同じく1時間あたりの平均仕事量が100だとすると

10時:10
11時:0
12時:0
13時:20
14時:30
15時:300
16時:340

こんな感じになります。

いや冗談ではなく、本当にこんな感じになるんです。
AさんもBさんも、10時から16時の間でこなしている仕事量は変わりません(両者ともに700)。

しかし、それを一定のスピード、一定のリズムで出来るか否かが、定型発達者とADHDの大きな違いなのです。

ADHDの人間は「一定のリズムで仕事をする」ということが、本当に、壊滅的に、苦手なんです。

 

ADHDと「残業禁止ルール」の相性の悪さ

すると、ADHD的には「残業禁止」というのは極めて厳しい条件になります。

「残業禁止」というのは「8時間で800の仕事をしよう」というルールです。定型発達者なら、8時間かけて100×8=800の仕事をして、気持ちよく帰宅すれば快適に仕事ができます。

しかし、ADHDとしては「8時間の間に過集中(ハイパー仕事できるモード)が来るかわからない」という恐怖があります。

調子のいいときなら、8時間で2000,3000の仕事をこなせるのがADHDです。

しかし、調子の悪いときなら8時間の仕事量は80程度になってしまうかもしれない。

1日単位でノルマを測られることは、出力が安定しないADHDにとっては極めて恐ろしい状況なのです。だからこそ、上の記事で借金玉氏は「ロスタイムを使わせてくれ」と主張しているわけです。

もし過集中が8時間の勤務時間中にこなかった場合のために、予備の時間を無給でいいから使わせてくれ…と。

 

定型者・ADHD、両者が納得する解決策はどこにあるのか

借金玉氏の「ロスタイムをくれ!」という要求は、同じADHD者としては極めて共感できます。

我々は一定のリズムで仕事ができない。毎日決まった仕事量を積み上げることができない。

しかし、だからといって「ロスタイム」の濫用を許してしまえば、それが労働ダンピングに、ひいては職場環境の悪化に繋がるという指摘もまた最もです。

この問題の解決策はどこにあるのでしょうか。

メンヘラ.jpでは、この問題について過去に扱ったことがあります。

借金玉氏と同じくADHD持ちのライター、Cyndiさんが執筆してくれた

・部下がうつ病だったらどうすればいい?メンヘラが一般就労時にされて嬉しかった4つの工夫と配慮

という記事です。

この記事では「1日のパフォーマンスにバラつきがある」という問題に対して、Cyndiさんの上司が取った対策が紹介されて います。短いので引用しましょう。

>>

「1日にどれだけやったか」ではなく「合計でどれだけやったか」で計る

私は就労していた当時は特に体調の波が激しく、生理周期や天気、前日の体調等によって1日のパフォーマンスに差があり ました。その時会社がとってくれた配慮は、「日々の結果を比べるのではなく、一定の期間(週、月)の結果で判断できるよ うな仕事を振る」ことです。

私が毎日コツコツできない(難しい)人なのだから、毎日コツコツやらなくて良い仕事を割り振る。自分も体調の良い日は倍 速で仕事を進めるようにして、体調の悪い日はとっとと定時で帰って翌日を少しでも「体調の良い日」に持っていくため早 く寝る。その日その日のパフォーマンスにいちいち凹まず、翌日のことを考えた行動をとれるようになりました。

仕事の割り振り方・評価の仕方を配慮してもらうことで、仕事がやりやすくなった例です

>>

「毎日の仕事量にバラツキが出る」という問題を「評価期間を長くする」という方法で解決する。

いくらパフォーマンスにバラツキのあるADHDとは言え、長期間で測ればの仕事量はだいたい収束します(大数の法則)。

作業量の見積もりを1日ではなく1週間、1ヶ月という単位にしてもらえば、大抵の場合平均してノルマをこなすことは可能です。

もちろん他の定型発達者と評価軸が違ってしまうこと、業務の予測が立てづらくなることなど、全ての問題が解決するわけではありません。しかし「ロスタイム導入」に頼らない、ひとつの選択肢と言えると思います。これなら労働ダンピングの問題も生じません。

 

…しかし、もちろんこれは上司が発達障害に対し理解があり、素晴らしいマネジメントを行ってくれた事例の話です。多くの職場は、はっきり言ってこれほど恵まれてはいないでしょう。発達障害に対し無理解な環境で、我々ADHD当事者がいかにサバイヴするか。この問にはなかなか答えが出てきません。

時には(特に理解のない職場では)「労働ダンピング」がADHD当事者にとって最適行動になってしまうこともあり得るでしょう。借金玉氏のエントリはそういった問題意識を孕んだものとして受け止められるべきものだと思います。

定型発達者と発達障害者(ADHD)、特性の違うふたつの種族がひとつのルールの元で働けば、ある種の齟齬や亀裂が発生してしまう。それをどう埋めるのか。元エントリと同じく、完璧な結論は出せそうにありません。

 

ADHDパーソンにも価値はある…かもよ…?

ここまで読んでくれたみなさんの少なくない方が

「ADHDめんどくせえなー」

「こいつらと一緒に仕事すんのやだなー」

という感想を抱かれたと思います。

ほんますいません。でも本当に、我々はそういう種族なんです…。

実際自分たちが一番困ってます。いつもご迷惑かけて本当に申し訳ありません…。
で、でも、ADHD特有の「パフォーマンスが安定しない」という特徴は、ある種の創造性に繋がるかも…みたいな説も、その 、あったりなかったりするんです。

過集中が生じ、10倍くらいのスピードで脳が回転している時、脳内麻薬のドライブ感の中で、ときおり何かが生まれます。新しいアイディア、方法論、裏道、大抵はそういったものです。

とある調査では「起業家の3割はADHD」というデータも出ているらしく、創造性やら何やらにADHD的な気質が関わってるかもねー、的なふわっとした希望というか説みたいなものもあるわけです。

なのでその、日常業務のパートナーとしてはまことに鬱陶しいとは思いますが、ときおり金の卵を運んでくる的な成果を上げる…こともあるかもしれない可能性は否定できない…ということでですね、ADHDな我々にも職場の末席に椅子を頂ければ幸いでございます…。

パフォーマンスはできるだけ長期で測って頂けるとうれしいです…。

みなさんのお邪魔にならぬよう、我々も努力していきますので…。

 

【関連記事】
ADHDは残業規制を邪魔する悪のモンスターなのか

 

【告知】

https://twitter.com/ganbare_zinrui/status/835982736934350848


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わかり手

メンヘラ.jpのライター兼編集者。 メンヘラなりに前向きに生きていきたい。好きなメンヘラ作家は永田カビ先生。

7 件のコメント

  1. 返信

    おー。これ。
    自分もそうなんでADHDなんすね。
    因みに自分会社やってます。
    自分の自由に時間使えるとなんとかなりますよー、

  2. 金銀子 返信

    私もADHDです。やはりできる時とできない時が極端です。(仕事でも趣味でも)「できた」時の自分を評価されても「できない」時の自分がホントの自分で、「できた」のはまぐれか評価してくれた人がひいき目にしてくれたのだと思うこともありました。(ちなみにADHD診断をキチンとしてくれる医師出会えたのは45歳の去年)

  3. 外資系投資銀行勤務 返信

    私もADHDですが、まさに記事の通りです。
    仕事が好きで通常orブーストという状態なのでコンスタントに健常人を超えられる自信はありますが、
    そうではないADHDの方も多いと思いますので1日8時間ルールは厳しいと思います。

  4. hoge 返信

    ADHDと診断されてはないけど、めっちゃ分かる。
    残業代が出る会社でキッチリ成果出せと言われるより、残業代が出ないでいつまで会社にいてもいい、良く言えばベンチャー、悪く言えばブラック企業で働きたい。

  5. 返信

    まさにそれ。
    死にたいーと、首に紐を巻いた5分後に震災映画に泣き、煙草吸ったら明日の仕事のシフトを組む。
    人より仕事が出来ない自覚がありあまるも、お役に立ちたい気持ちもありあまるあまり、残業も休日出勤も自ら名乗り出るも、でも自分では役に立たないかもしれないでも自分に出来る事ならやりたい、あー、でもやっぱりだめですじゃん私、も、死ぬしかないかを繰り返す日々。
    そ、そ、愚痴ですね。これ。すみません、世の中の方々。という感じですかね?

  6. キコリ 返信

    はてブでは何故か「サビ残を許容せよ」と曲解されてるこの記事だけど。
    実際の主張は「ダンピング前提で考えると職場の空気がサビ残容認に傾いてしまい定型者の負担になってしまうので良くない、だからADHD持ち社員に対しては新たな評価基準を導入しましょうよ」という真逆の内容なんだよね…つまり両者で折り合いの付く妥協点を探り合えと

    仮に定型者だけの社会だったとしても画一的なものさしだけで「測る」という行為を繰り返してたらいつかは綻びが出てしまうから、今後の労働形態の在り方を考える上では非常に建設的な意見だと思ったよ。筆者はブコメの意見なんか気にせず主張を貫き通してくれ。

  7. ささめ 返信

    自分はadhdなのかどうかは分かりませんが、性能比10:340というたとえは共感できます。

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