ADHDは残業規制を邪魔する悪のモンスターなのか




 

借金玉氏のこのエントリから始まった「残業とADHD」の議論、様々な方の参加、乱入、殴り込みなどを経て、当初からは想定できないほど大きな話題になってますね。

ブックマーク100user超えの主なエントリだけを選んでも

残業禁止は強者のルールなのでは、という話。

ADHDと「残業禁止ルール」の相性の悪さについて

残業禁止とADHDのアレ

残業規制がADHD排除の論理なわけないじゃん

ADHDで管理職をやっている者なんだが

…となんと3日で5本。

明日の朝あたりにはまた増えてそうな予感です(この記事とか)。

 

さて、僕は基本的にこうした混沌とした議論の場では、できる限り論点を整理しようとするタイプの人間です。熱くならずに一歩引いて、「今、議論になってるのってそもそもどういう話だっけ?」とスタート地点を確かめにいく。そうしないと人間の対話というのはどんどん泥沼の混沌に墜ちていくという経験則があります。

というわけで、今回の「残業とADHD」についても、今一度最初のエントリに戻り、

借金玉氏は何を主張していたのか

それについてどのような反論が寄せられたのか

これらを整理してみようと思います。

3日前のエントリに目を戻してみましょう。

さて、この話ってそもそもどういう話なんだったっけか──?

 

借金玉氏のエントリを再読してみる

最初の借金玉氏のエントリを、今一度しっかり要約してみましょう。

・ADHDな自分は業務効率にムラがある

・また事務作業のような単純作業を効率的にこなすこともできない

・すると、残業禁止のルールで、かつ単純作業効率を測られるような評価軸だと、自分は極めて厳しいことになる(過去実際なった)

・つらい

・しかし、「残業禁止のルールで、かつ単純作業効率を測られるような評価軸」で、果たして人間の創造性は計測できるんだろうか?

・いわゆる一般的なホワイト環境が、必ずしも全人類にとってのホワイト環境ではない。(引用した)「脱社畜ブログ」を否定するわけではないが、「そのルールだと僕みたいな人間は死ぬんだよな…」と言いたい。

こんな感じです。

段落ごとに精読して要約したので、取りこぼしは殆ど無いと思います。

このエントリが何を主張しているかというと、まぁぶっちゃけた話、特に何も主張してないというか、単に愚痴をこぼしているだけというのが正確なところかなと思います。

「自分はこういう環境だとつらかった」という「自分はこうだった」という個人的な体験談が主な内容で、あるべき社会システムを提言しているわけでも、何らかの制度に反対しているわけでもありません。

まぁ要するに「アラサーADHDオヤジのボヤキ」とでも言うようなエントリです。

…つくづく、なんでこんなもんが炎上したんですかね。

 

寄せられた反論

この愚痴エントリに対して、寄せられた反論は概ね次のようなものだと言えるでしょう

 

「残業禁止」のルールに口を挟むな!!

 

無能だから労働ダンピングで有能な振りをさせてくれと言って労働時間短縮の足を引っ張るわけか。まさに無能な働き者。 id:yorkfield

他人を残業戦争に巻き込みたいです!ぼく発達障害だからいいよね!って主張にねーわって言われてるだけでしょ。sunechamacell

わざわざ自身を鎖で縛り強者に逃げ口上を与えてる。 demandosigno

などのコメントをはじめ、

残業規制がADHD排除の論理なわけないじゃん

のエントリなど。

あらゆる方向から

「残業規制を悪く言うな!」

「残業禁止のルールに口を出すな!」

と、いう(かなりキツい)反論がピュンピュンと飛んで来ました。

反論だけ読むと、借金玉氏は元エントリでだいぶ強く残業規制を攻撃したようにも見えます。サービス残業を推奨する邪悪な魔王、それに立ち向かう戦士たち、そんな構図に思えます。

さて、しかし、実際にそうだったんでしょうか。

 

借金玉氏の残業規制に対するコメント

元エントリから、残業規制に関する借金玉氏の考えを引用してみましょう。

>>悩ましいんですよ。過労死とか実際にあるわけで、「俺は長時間労働したいんだ!死んでもいいから労働させろ!」とか吠える気にもならないし、「長時間労働する自由を!」とか言う気にもならない。

>>引用したエントリも一面的には正しいと思うんですよ。別に批判したいわけじゃない。でも、そのルールだと僕死ぬんだよな…とボソっと言いたいだけです。

 

ここまで叩かれてるのでみなさんも意外に思うかもしれませんが、

借金玉氏、別に残業規制について反対とかしてないんですよね。

「ADHDだけ特例で残業させろ」とか

「発達障害の人のことを考えて残業はフリーにしろ」とか

そういう類いのことは一言もいっていません。

時代の流れとしての残業規制を認めつつ、残業規制の流れの中で幸せになれない自分を思いつつ、その中でどう適応していこうか…、そういうことを愚痴っているに過ぎません。

 

敵か味方かですぐにワーーッとなるインターネットの民

要するに「ADHDと残業規制をめぐる議論」に見えていたものは、

実際は「お?こいつ敵か?叩いていいのか?」的なノリでワーーッとなったネットイナゴの集団飛行に過ぎなかったのではないかと、そういうお話です。

少なくとも借金玉氏は、残業規制について反対の立場を取っていません。「残業規制はADHD排除の論理」とか「残業を規制するのはADHD疎外」とか「ザビ残認めろ」とか一言も主張していない。「ADHDな自分は、残業がなくなったら困るな…」という個人的な感想をこぼしていたに過ぎません。

 

なぜ単なる愚痴がここまで大炎上してしまったんでしょうか。

僕の考えでは

・「残業」というわかりやすい悪役キャラ

に加えて

・ネット論壇特有の「敵」認定の早さと雑さ

・「とりあえず叩けるものは叩いて溜飲を下げたい」的なネットユーザーの安易な心理傾向

に影響される面が大なのではないかと思います。

ネット、特に速度の早いSNSなどでは「○○は叩いていい」的な合意形成がときに迅速に行われます。そして一度形成された合意は、滅多なことでは覆りません。

すると「記事の中身は読んでないけど、みんなが叩いてるから俺も叩くぜ!」的なイナゴたちがわらわらと土から還りはじめ、空一面を埋め尽くすことになります。

その結果、別に残業規制に反対してない人に対して「残業規制に反対するな!!!!」と全力で拳を振り上げるひとが何ダースも出てくるという謎の光景が繰り広げられることになるわけです。

誰も本文をまともに読んでいないので、それぞれの拳は「各々の内心にある悪のイメージ」に対して叩きつけられます。とすれば「残業」は誰しも心にサンドバッグを抱きやすいイメージ像。別に残業規制に反対してない人が残業規制反対派として叩かれるという珍事は、こうして発生したわけです。

 

安易な「敵」「味方」認定、そろそろやめませんか。

このエントリで言いたいのは、要するにそういう話です。

言ってもないことで勝手に悪役にされてボコボコに叩かれてる人間を見ると、流石に「なんやねんこれ」と思います。特に「残業」みたいなインターネット正義の味方マンが湧きやすい話題は、「敵認定」がよりいっそう素早く、よりいっそう雑になるなと感じています。

この話題から拡大して「ADHDは残業規制の敵だから労働市場から排除しろ」みたいなことまで言ってるひともいるんですが、本当に勘弁してください。

圧倒的大多数のADHDは、別に残業規制に反対していません。ADHDはあなたの職場を襲うモンスターではありません。「理解と寛容」までは求めませんが、せめて無根拠に石を投げるのは勘弁してあげてほしい。そのように思う次第であります…。

 


【執筆者】
わかり手

【プロフィール】
メンヘラ.jpのライター兼編集者。
メンヘラなりに前向きに生きていきたい。好きなメンヘラ作家は永田カビ先生。
Twitter:@ganbare_zinrui

 


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2 件のコメント

  1. umacra 返信

    わかりやすいまとめでした。成り行きをなんとなく眺めていて「これって借金玉氏のブログをサンドバッグにして自分の正義を語ってるだけじゃないかな」と思ってたので、こうしてきちんとまとめられると腑に落ちる感じがします。それぞれに立場があるということを理解しない一面的な白黒思考のお気楽さでぶん殴られた氏に同情するとともに、人をぶん殴る前に立ち止まって考えてみよう、みたいなことを思いました。

  2. 何者 返信

    すみません、イナゴの一人のような者です。映画、何者はみなさんご覧になられたでしょうか、私は書籍と映画を一回拝見しました。

    何言ってるんだ、こいつ、と思われますよね、今更就活ホラーな話をするのは。ただね、これは私の感想なんですが。みんな、何者のつもりなんですか。私も含め。単に、一般の一井ですよね。それが、イナゴになって、借金玉さん一人に襲いかかったって、何者にもなれやしません。

    そんな機会が今回たまたま真面目で、ムラはあっても論戦がしっかりできる借金玉さんに、与えられた、訳ですが。

    エントリーをチラ見して思います。なあ、みんな、何者でもレンタルしてさ、酒でも飲んでさ、借金玉さんに、返せない酷いことした詫びでもしねー?の。

    では!

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