【書評】ひかりをすくう(橋本紡)

コラム 書評 syy

こんにちは。syy(しゅや)と申します。秋も深まってきましたね。
夏の気配は薄れていき、風も温度が下がり、ショーウィンドウに並ぶ服は長袖ばかりです。朝晩は冷え込みも強くなってきましたので皆様ご自愛くださいね。

今回は橋本紡さんの「ひかりをすくう」を紹介したいと思います。この本は、私が双極性障害と診断されるずっと前に1度読んでいて、最近読み直したところめちゃくちゃ感銘を受け、紹介しようと思い立ちました。

 

〇作者プロフィール


作者の橋本紡さんは三重県出身の小説家で、代表作といえば、「半分の月がのぼる空」(電撃文庫)が有名でしょうか。ライトノベル出身の作家さんですが、一般文芸に転向なさって、2013年に小説家引退宣言をしました。*
切なく苦しい日常や家族、恋愛を描いた作品を多く書いています。

 

〇橋本紡「ひかりをすくう」あらすじ


本作は、智子が哲ちゃんに仕事を辞めたいと切り出すところからはじまる。智子は大学時代に始めたデザイン事務所でのアルバイトにのめり込み、そのままそこへ入社した。順調に仕事は進み、指名して依頼されるほどになった。しかし、多忙を極めた結果パニック障害になる。そして智子は仕事を辞める決意をするのだが、引き受けている仕事を投げ出すことができず、ずるずると仕事を続けてしまう。

そして智子の退職を期に、都心から離たところにある一軒家に引っ越す。そして2人とも定職に付かず、貯金での生活がスタートする。魚の新鮮さに驚いたり、元職場の上司から慰留されたりしているうちに、ひょんなことから智子は小澤という女子中学生に英語を教えることになる。

 

〇仕事が楽しいけどつらい


私は8月に仕事を辞めたのですが、まさにこの「仕事が楽しくてやっていたのにいつの間にか疲労が溜まって心身の調子を崩し、退職を決意するものの辞められない」状態をかなり長い間続けていて、智子に非常に共感して胸が苦しくなりました。

本作はどうしてもパニック障害という単語に目が行きがちですが、どうやってパニック障害を克服したかだとか、治ったのかだとかという話ではありません。

障害を持って生きていても、なんの変哲もない普通の日だってある。この本の主題はパニック障害ではないのです。障害があっても無くても、私たちの「生」と地続きな毎日を描いた作品です。

 

〇橋本紡さんの描く「日常」


この小説には、ご飯を食べるシーンがよく出てきます。寝て、起きて、ご飯を食べる。四季を五感で感じる。そういった描写が事細かに書き込まれていて、目の前にその景色が広がったり、登場人物の心の動きに自分が付いていくような不思議な気分が味わえます。

智子が英語を教えることになる小澤さんは不登校なんですが、智子と哲ちゃんは理由を問い詰めるでもなくそのままの状態として彼女を受け入れます。「無理そうだったら、やめてもいいんだぞ」という哲ちゃんの言葉に救われます。

そうして「普通」の社会には溶け込めない3人の、ゆるゆるとあたたかい生活がつつましくも穏やかに続きます。

全体としては緩やかな時間の流れを描いているのですが、じっとりとまとわりつくような負の感情もありありと描かれています。特に智子がパニック発作を起こすシーンだとか、哲ちゃんの昔の女とバトるシーンです。私はそこに心を突き動かされ読み進めたのですが、今現在パニック発作で苦しんで居る方はフラッシュバックが起こるかもしれないので、気をつけてくださいね。

サスペンスやホラー、推理小説が好きな方には物足りないかもしれませんが、ありきたりな勧善懲悪モノや、必ずみんなが救われる幸せな世界を描いた作品にうんざりした時、この本は私たちに寄り添ってくれます。

同じ作者の「猫泥棒と木曜日のキッチン」、恋愛ものだと「流れ星が消えないうちに」もオススメです。是非、読んでみてください。

*その時の宣言がツイートされていたのですが、Twitterのアカウントもブログも公式サイトも残っていないので、NAVERまとめを参考として貼っておきます。書評とは全然関係ありません。

 

 


【執筆者】
syy(しゅや) さん

【プロフィール】
20代半ば。社会人になってついたあだ名は「メレンヘラー(心優しいメンヘラ)」。
死なない程度に生きてます。


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