「死ぬ権利は奪えない」 自殺志願者と向き合う電話相談員の声

コラム ヌクイ クリニック絆 取材記事

「今から死にます。」

自殺志願者の最後の砦となることも多い電話相談。読者の皆さんの中にも、お世話になったことがある方がいるかもしれません。わたしも利用者の一人でした。

顔も名前も知らない相手の電話を受ける相談員は、いったいどんな気持ちで苦しみの声に向き合っているのでしょうか。

今回は、公益社団法人「青少年健康センター」が運営する電話相談窓口「クリニック絆」の電話相談員3名にお話を伺ってきました。

 

■電話相談窓口「クリニック絆」


メンヘラ.jp編集部(以下、編集部)
「クリニック絆の皆さん、本日はよろしくお願いします。」

相談員Aさん(以下、Aさん)
「よろしくお願いします。」

編集部
「まずはクリニック絆について、簡単にご説明いただきたいのですが……」

相談員Bさん(以下、Bさん)
「私たちは2012年に開設した、自殺予防を目的とする電話相談窓口です。

一般電話相談は、月曜日から金曜日の13:00~18:00でお電話を受けています。ご希望の方は、無料で精神科医による電話相談を受けられるのが特徴で、そちらは予約が必要です。

お電話じゃなく直接お話したいという方は、有料で面談相談も受け付けています。」

*一般電話相談 03-5319-1760
月曜日~金曜日 13:00~18:00

*精神科医による電話相談(※予約制)
第2・4土曜日 14:00~18:00

(引用:クリニック絆 - 青少年健康センター



相談員Cさん(以下、Cさん)
「後発なのでまだ入電も多くなく、わりとつながりやすい窓口だと思いますよ。」

Aさん
「クリニック絆では”その人の気持ちを聞く”というところにとどめています。すでに治療を受けている方も、そうでない方も、ゆっくりとお話をお伺いします。」

 

■顔も名前も知らない相手の死にたさを受け止めるということ


編集部
「実際、どんな方からの電話が多いのですか?」

Aさん
「私たちはクリニック絆以外でも電話相談員として長くボランティアを続けているんですが、最近は若い方からのお電話が少ないんです。お電話を掛けてくださるのは30代~40代の方が多いですね。若い方はむしろメールの方が多くて。」

Bさん
「メールが悪いわけではないんですよ。ただ、肉声でのコミュニケーションのほうが状況が伝わりやすいですし、電話には"顔が見えないからこそ話しやすい"という良さがあるんじゃないかと思うんですが……。若い方にとって『電話相談』というものはハードルが高いのでしょうか?」

編集部
「うーん、人によってはそうかもしれません。これは憶測なんですが、人と話すのが怖い方も多いんだと思います。否定されるんじゃないかとか。」

Aさん
「否定、と言いますと……?」

編集部
「はい。例えば、『つらいのはあなただけじゃない』とか『死んじゃダメだ』とか、そういうことを言われるんじゃないか、自分の話なんて聞いてもらえないんじゃないかと思ってしまって、なかなか電話がかけられない……というような。」

Aさん
「若い方の中には、私たち相談員がそういうことを言うんじゃないかと不安に思っている方がいる、ということでしょうか……?」

編集部
「『自殺予防』と聞くと、ついそうイメージしてしまう方もいるのかなと。実際、わたしも電話をしようか迷っていた時はそう考えていました。」

Aさん
「私たちはあくまでも電話をかけてくださった方の味方です。相談者の方を無責任に励ましたり、苦しみを否定することは決してありません。

電話相談員なので、例えば『今から死ぬ』と言われても駆けつけることもできませんし、むやみに警察に通報することもできません。状況を聞いて、救助が必要だと判断した場合でも、相談者の方が自分から救急車を呼ぶように説得しています。」

編集部
「そうなんですね。なんというか、安心しました……。『電話して、怒られないかな』と思っている方はとても多いと思うので……。

あとは、どんな人たちが話を聞いてくれるのか、イメージできないのも一つの要因かもしれません。」

Aさん
「なるほど。まず安心していただきたいのは、『守秘義務は絶対に守ります』ということ。当たり前のことですが、やっぱり不安に感じられる方もいらっしゃるようです。なかには心理士等の資格を持った相談員もいますが、ほとんどは普通の女性であることが多いです。もちろん、お電話を受けるにあたって研修に参加して、専門家の認定を受けた方が相談員として活動しています。」

Bさん
「あとは……やっぱりみんなボランティアを希望して活動しているので、もちろん個人差はあると思いますが、普通の人よりは”つらい”という気持ちや”生きづらさ”に対する理解度は高いと思います。苦しんでいる人に寄り添いたいという気持ちも。」

Aさん
「そうですね、『寄り添いたい』『命を大切にしたい』。それは決して相手の不安や苦しみを否定したり、非難したり、問いただしたりするようなことではありません。」

 

■常に生きづらさを感じて生きてきた


編集部
「少し、突っ込んだお話を伺ってもよろしいでしょうか。皆さんはどうして電話相談員になろうと思ったんですか?」

Bさん
「私は、やっぱり周りに自死を選んだ人が多かったから……それに、私自身も学生のころから、ずっと生きづらさを感じながら生きてきました。」

編集部
「生きづらさ、ですか。」

Bさん
「そう。その生きづらさについてはここで詳しくお話しませんが、とにかくずっと『生きづらいな』と感じていました。それでも私は普通に学校も行ったし、仕事もしたし、結婚もしたし、普通に生きてきたけど、でもやっぱり”生きづらさを感じながら生きることの大変さ”はわかっているつもりです。」

編集部
「生きづらさを抱えながら生きている人は、確かにとても多いと思います。」

Bさん
「そうですよね。それに、私の周りにも同じように生きづらそうな人たちや大変そうな人たちが多くて、いつも『生きていくのって大変だよね』と思っています。そのなかで、つまずいたり立ち止まったりした人に『何か出来たらいいな』と思ったのが、電話相談員になったきっかけかもしれません。」

編集部
「生きづらさが極まった結果、『死んでしまいたい』という人も多いんじゃないかと思います。そういう方からの電話を受けて、どういう感情を抱きますか?」

Bさん
「うーん……もちろん、『その人の死にたい気持ちは』は完全にはわからないんですよ、本当のところは。でも、”死にたい気持ちを持つ”という気持ちはわかるから……。

それで、『でも、たしかに死にたいのかもしれないけど、電話を掛けてきてくれているじゃない?』って思うんです。私に何ができるかはわからないけど、電話を掛けてきてくれた相手の話をしっかり聞いて、私からは『死なないで』ってことを伝えたい。」

編集部
「とにかく先方の気持ちや想いを吐き出させて、言葉を受け止めて、少しでも意識をそらす、というか、相手の死にたい気持ちを逃してあげるような。」

Bさん
「はい。『死ぬのは私の勝手でしょ』とか『あんたに関係ない』とか言われてしまうこともあります。それはそうかもしれないけど、『でも、電話を掛けてきてくれたでしょ?』って。生きたくない、けど死にたくもないんじゃないのかなって。もちろん、『生きよう!』とかそんな前向きにはなれなくても、死ななくてもいいように、そうなってほしいですね。」

編集部
「”死にたい”と”死にたくない”の狭間で話を聞く、というところですね。」

 

■一回一回が真剣勝負


編集部
「この『死にたい』と『死にたくない』がせめぎあっている人たちに、他人である私たちができることって何でしょうか?」

Aさん
「本当に、言葉をかけるにもすごく慎重になりますよね。この一言が相手の心にどう伝わるかで、何もかも変わってしまうというような状況もあります。それこそ、次の言葉が出てこないような……。

例えば『今から死ぬ』と電話をかけてくる方もいます。そういった方でも、お話を聞いていくうちに、少しだけ考え方を変えたり、気持ちを動かしてあげることはできるんじゃないか、そうすれば何かが少し変わるんじゃないか?と私は感じています。なのでその方にも、『どうにか明日につなげていきたい』という気持ちでお話を伺いました。

そして、長くお話をしたあとに『明日も電話する』とお約束をいただけて、ちゃんと翌日お電話をいただけた。そうやって、命をもう1日、明日につなげた経験はあります。」

編集部
「それは本当に……『真剣勝負』ですよね。」

Aさん
「まさにその通りです。お電話を掛けてくださる方にも、私たち相談員がどこまで真剣に聞いているか、ちゃんと伝わっていると思います。本当に真剣ですよ。『あなたのことを本当に考えている』ということが伝わらなければ、明日へはつなげられないと思います。本当に心から伝えなければ、口先だけだと思われてしまいますから。」

編集部
「”どんな言葉を使うか”だけではないですね。心というか、魂を込めて会話をしている。」

Aさん
「そうですね。」

編集部
「例えば、家族や友人などの親しい間柄であっても『あなたのことを本当に考えている』と伝えるのは難しいと思います。それを電話の向こうの見ず知らずの相手に伝えるというのは、どういうお気持ちなんでしょうか。」

Aさん
「もう相手のことしか考えていないですね。没頭しています。なんとか少しでも死から意識をそらせたい、少しでも気持ちを変えたい、という思いです。

過去に一時間以上お話をした方から、『見ず知らずのあなたにこんな話をしたけど、何とかちょっと気持ちが動いたよ』と言ってもらえたことがあるんです。そのとき、”見ず知らずの人でも誰かを助けることができるんだな”と実感しました。ちゃんとお話ができれば『わかってもらえてよかった』と言ってくださる方もいますし、そういうときはやっぱり”ボランティアを続けていてよかったな”と感じますね。」

 

■死ぬ権利は奪えない


Cさん
「私は、自分が人を助けられるとは全く考えていないんです。お話を聞いても、本当に『私でも死にたくなるよ』と思ってしまうような背景を抱えた方ばかりで。そんなつらい方に『生きて』なんて言えない。だから、私は”話を聞く”、”気持ちを受け止める”以外はできません。」

Bさん
「よく言われるよね、『なんで死んじゃいけないの?』って。」

Cさん
「そうなんですよ、死ぬっていうのはその人の最後の権利なんですよ。それを奪うなんてことは私にはできないから……。」

編集部
「そういうお気持ちでお電話を受けてお話を聞くって、つらいですよね。」

Cさん
「つらいです。」

編集部
「それなのに、どうして今もお電話を受け続けているんでしょうか?」

Cさん
「自分にも同じ経験があったっていうか、ね。そういうときに誰かに聞いてもらうと、やっぱり少し楽になるんですよね。自分も誰かに話を聞いてもらって楽になった経験があるから……。私が話を聞いて、気持ちを受け止めることで楽になる人がいれば、と思っています。

以前、本当はいけないんですけど、お電話をかけてくださった方と一緒に泣いてしまったことがあるんです。お話を聞いてるうちにあんまりにもつらくて、私が泣いてしまって。それで相手の方も堰を切ったように泣き始めて、二人して大声で泣いて。しばらく二人で泣いたあとに少し気持ちが変わったようで、『また明日ね』って言ってもらえました。」

編集部
「そんなに親身になって……というか、ご自分のことのように、お話を聞いていらっしゃるんですね……。」

Bさん
「”泣くほどの気持ちを共有した”ことが相手の気持ちを変えたんだと思う。……だから、本当に自殺予防といっても、相手の『死にたい』や『苦しい』を聞いて、『やめなさい』とか『死ぬのは悪いことだ』とか『間違ってる』とか、そういうことじゃないんですよね。」

Aさん
「そんなこと絶対に言えないですね……。私たちも、お電話をかけてくださった方と同じ気持ちで向き合っています。でもやっぱり”死なないでほしい”という気持ちはありますから、『どうにか死なないでほしい』という思いでお話を聞いていますね。」

 

■死にたい気持ちは全否定されるようなことではない


「クリニック絆」の3名にお話を伺って、相談員の方は電話をかける私たちが想像しているよりもずっと、私たちのことを大切に想ってくれていると感じました。

自分の一言で相手を死なせてしまうかもしれないという重い重い重圧の中で、当事者の心に寄り添うということ。それは口先だけの「寄り添います」では、とても続けられません。たとえ顔も名前も知らなくても、むしろ顔も名前も知らない他人だからこそ、苦しみの渦中にいる当事者の支えになれる。

冒頭にも記したように、自殺志願者の”最後の砦”になろうという責任と覚悟を肌で感じました。

 

お話の中で、Aさんは「若い方のSOSが支援者に届きにくい」ということを仰っていました。

死にたさのドツボにハマっている状態ではSOSを出すことすらままならないということは、私も経験上、重々承知しています。好きなこともできない、ベッドから起き上がることもできない、指一本動かすこともできない。そんな状態で、他人に助けを求めるということは、本当に難しい。

でも、ネットくらい開けるようになったら、メンヘラ.jpくらい読めるようになったら、死にたさを文章にできるくらいになったら、誰かに助けを求められるくらいになったら、誰かに話を聞いてもらいたいと思えるくらいになったら。

そんなときはぜひ、「クリニック絆」にお電話してみてはいかがでしょうか。

 


【取材を受けてくださった方】

電話相談窓口「クリニック絆」

*一般電話相談 03-5319-1760
月曜日~金曜日 13:00~18:00

*精神科医による電話相談(※予約制)
第2・4土曜日 14:00~18:00

運営:公益社団法人 青少年健康センター(http://skc-net.or.jp/

 


【執筆者】
ヌクイ

【プロフィール】
メンヘラ.jp副編集長。それ以外何者でもありません。
Twitter:@sub___jp


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