「大病院の精神科ならすぐに死にたさを消してくれる!」と思って転院した結果

体験談 発達障害 原下祈

「死にたい」という気持ちとは随分長い付き合いになる。

漠然とした「死にたい」の感情が、いつからかはっきりとした意志になってしまい、総武線のホームに経つと電車に飛び込みたくてたまらないようになった。

これはあかん、とクリニックに駆け込んだのがもう5年前。そう、精神科に通い続けて5年が経過した。

5年。5年である。

たったの5年? いや、5年といったら小学生が高校生になっているくらいの年月。それだけの期間精神科に通い、無論お金を払い続けて、薬を飲み続けて、結果はどうだ。相変わらず死にたい。JRは火急にホームドアの設置を進めてほしい。私が死ぬ。

なんでそんなに死にたいかってそりゃあ、月並みな言い分だが、うまく生きられないからだ。何も大富豪になりたいだとか、知らぬ者はない有名人になりたいだとか、そんな大それた人生を望んでいるわけではない。ただ普通に学校に通ったり、普通に会社で働いたりしたい、ただそれだけのことができない。

 

ある日、もーメチャクチャ辛抱たまらなくなって、「大病院に行こう!」と思い立った。

大病院の超エラい先生の手にかかれば、小クリニックの医者が5年かけても治せなかった死にたさを奇跡的手腕で立ちどころに治してくれると思ったからである。あまりにも短絡的というか都合が良すぎるというか、端的に言ってアホな理論だが、当時の私は真剣だった。クリニックには紹介状を書いてもらい、某大学病院に予約の電話を入れて、これでやっと死にたさから解放される、と目を輝かせていた。

「死にたさってそう簡単には消えないからね」

待ちに待った某大学病院での診察で、担当の先生は事も無げに言った。大学病院なので予診は学生だか研修医だか(よく覚えていない)にしてもらったのだが、その学生だか研修医だかの女性はとても真摯に話をきいてくれて、なんの問題もなかった。寧ろその後の、若いがしっかりとしたキャリアをもったNEW主治医の告げたこの言葉が大問題だ。え? 私、死にたさを消してもらいに来たんだけど、アーハン?

メチャクチャ辛抱たまらなくなってここに予約を入れた頃の私は本当に辛抱たまらなかったので、「入院も視野に入れてほしい」とか言って受付のスタッフを少々困らせたのだが、それについても「入院って集団生活だからね。原下さんは集団生活に向かないタイプのようだし……」と一蹴。いや軽く目からウロコは落ちたが。そっか、言われてみれば入院って集団生活だ。うん。即刻家庭から離さなきゃとか、管理下に置かなきゃマズいような人はそんなことも言ってられないんだろうが、あくまで任意で入院するかたちである以上、「集団生活がダメすぎて入院したら悪化しました」なんてなったら笑えないもんな。

それにしても。

大病院のエラい先生の知恵をもってしても「そう簡単には消えない」死にたさって、一体なんなんだ? 私はそんな強敵と日夜戦っていたのか?

と、混乱する私に、NEW主治医は「さて、」と改まって言った。

「ここでどんな治療を受けたいですか? 単純な薬の治療なら地元のクリニックさんでもできるでしょう。設備の整ったこの病院で、あえて受けたい治療ってなんですか?」

私の混乱が加速した。何も考えてなかった。ただここに来れば、なんかスゴイ含蓄ある名言とか、なんかスゴイごりごり効く新薬とか、そんなものが無条件に与えられる気がしてここに来ていた。私が求めていたそれは適切な医療行為じゃないな、と今ならわかるが、その時の私は「え? 今わたし見捨てられた?」などと被害妄想をブーストさせていた。

「心理検査とか受けてみます? 多分ふつうのクリニックさんではあまり受けられないと思いますし、つらさの原因を理解する手がかりにはなると思いますが」

助け舟が出された。実を言うと、心理検査は前いたクリニックの提携先で受けたことがあったので、わざわざこの病院に来なくても受けることはできたのだが、殆ど脳がショートしかけていた私は「じゃ、じゃあそれでお願いします……」と肯うので精一杯だった。

 

翌週、心理検査が行われた。担当してくれた心理士の方のご厚意で検査結果を早めに出してくれたので、次の診察で早くも検査結果について言及された。

検査結果はとても細かくフィードバックされた(前回クリニック提携先で受けた時は「特に目立った問題はないですね」の一言だったぞ)。それを一つ一つここに書くことはしないが、まとめると

「発達障害の傾向があります」

ということだった。

はったつしょうがい。聞いたことはある。が、それだけだ。

その日の診察は精神科恒例の「最近どうですか」的なアレと、心理検査の結果についてのお話と、新しく発達障害向けの薬が処方に加わっただけで終わった。「何か訊いておきたことはありますか?」と言われても、何もかもわからないので尋ねようがなかった。また次の診察までに脳内を整理して質問事項をピックアップしておこう、と心に決めつつ「今のところ無いです」と返した。

そして帰宅するなり「発達障害」でググりまくった。流石は近年のインターネッツ、玉石混交というかほぼ石じゃねえかみたいな検索結果を長年のネットサーフィン技術で乗りこなしつつ、また電子書籍の試し読みや書籍レビューを活用しつつ、突発的に本屋に行ってみたりもして、2日後には発達障害についての付け焼き刃知識を習得した。

半分くらいは「これは私には当てはまらないな」と思ったが、「あ、ああー!」と腑に落ちたことがいくつもあった。

まず、部屋が汚い。片付けようと思えば一気に片付けられるのだが、恒常的に整った状態を保てないタイプの汚さ。今までこれはうつでやる気がないのが原因だと思っていたのだが、発達障害の特徴のひとつでもあるらしい。

次に、優先順位をつけられない。単に私の要領が悪すぎるだけではなかった。そして能力に大きな凸凹がある。興味のあることに対する能力だけが突出していて、興味のないことはまったくできない。オタクはみんなそうだと考えていた(私の偏見に巻き込まれた全オタクのみなさん、ごめんなさい)。

で、じっとしていられない。私がどれくらいじっとしていられないかというと、基本的に部屋のなかを徘徊しているし、入浴時頭や体を洗う時ですら狭い浴室内を徘徊する。浴槽の中でもずっとジャバジャバと波を立てている。さすがに銭湯など公共の場では抑えているが、その場合一箇所に留まっている時間が短くなったり、まめに体勢を変えたりしている。これは言われるまでなんとも思ってはいなかった。

それから私には気分の波があり、双極性を疑われたこともあるくらいなのだが、発達障害にもその特徴が認められるらしい。

発達障害→社会に適合することが難しくなる→うつや不安障害などを引き起こす(発達障害が遠因であるならこれらは二次障害と呼ばれる)ということは本当によくある話らしく、まんま私か!?  と愕然とした。

が、なんとなくわかった。私がこれまでうまく生きられなかったのは、発達障害のせいでもある。

 

これまで、特に理由もない不安や原因のわからない生きづらさに苛まれ、その度に「死ねば全部解決なんだろォ!?」とブチ切れてきたが、少なくとも後者に対しては「発達障害さえなんとかすれば、なんとかなるんじゃね?」と前向きな対策の立てようがあることがわかった。

だがこの所謂「大人の発達障害」、なかなかのくせ者であるらしい。まず専門医がとても少ない。それだけ研究も進んでいない。一般においても、子供の発達障害でさえまだまだ認知が進んでいるとはいえず、況んや大人の発達障害をや、といった調子。驚いたのが、「大人の発達障害」にはコンサータやストラテラといった薬が使われるが、それらが子供のみならず成人にまで適用されるようになったのはなんとここ数年のことだそうだ。

何より発達障害全般が「基本的に治らない」。薬で抑えることはできるし、自身の心がけでカバーできる部分もあるが、曲がりなりにも寛解という概念が存在するうつ病と違ってこればかりは本当に「治らない」ものである。なるほどなかなかショックがでかい。

しかしこれは「過去は変えられない」くらいの情報ではなかろうか。なかなかの絶望的情報ではあるが、正直そんな気はしてたレベルだし、「でも今や未来は変えられる」とか「対策を立てることはできる」なんて続けることができる。あれ、だいぶ視界が開けてきたな?

 

人間は原因を求めてしまうものらしい。その原因が仮説でしかなくても、まして全く因果関係のないまやかしであろうとも、「これだ」という原因が見つかれば取り敢えず安心してしまうものだそうだ。前世がどうとかいうスピリチュアルが最たるものかもしれない。

ともあれ私は「生きづらさ」に対して「発達障害」という原因を見つけられた。

死にたさはそう簡単には消えないらしい。しかし死にたさを消そう消そうと躍起になるのも、逆に死にたさを想起させるだけなのかもしれない。原因がわかったことで少しでも生きやすくなれば、死にたさを「忘れる」瞬間が増えるのではないか?

まだまだ前途は茨の道だが、その中に少しだけ獣道のようなものが見えるようになってきた。

「大病院の超エラい先生の手にかかれば、小クリニックの医者が5年かけても治せなかった死にたさを奇跡的手腕で立ちどころに治してくれる」とキラキラした目で信じていた私よ。思うままにはいかなかったが、意外となんとかなりそうだ。

 


【執筆者】
原下祈 さん

【プロフィール】
ちっちゃな頃からメンヘラで15で病気と言われたよ
消去法で言えばまんがを描くのが好き
Twitter:@ohdunu(不遜不敬で特にまんがを描いたりはしてないアカウントです)


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