【書評】人間仮免中(卯月妙子)

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メンヘラ.jpをご覧の皆さんこんにちは。████です。

今回はメンヘラ文庫ということで、「これぞ」と僕が思う本を紹介していきます。本というか漫画ですが。前回は090さんにより「卒業式まで死にません」(南条あや)が紹介されました。

 

【メンヘラ文庫】卒業式まで死にません(南条あや)

こちらが未読の方は是非合わせてご覧ください。

 

題にある通り、今回取り上げるのは「人間仮免中」(卯月妙子,2012年,イースト・プレス)という、作者の自叙伝的な描き下ろしの単行本です。2013年の「このマンガがすごい!」や、「このマンガを読め!」などの上位にランクインしかなり話題になっていたので、既読の方も多いかと思いますが、全員未読の体で紹介を進めていきます。みなさんはいかがですか、人間本免許はお持ちですか。

 

「このマンガを読め!」「このマンガがすごい!」にランクインしている、とすぐ前に述べました。

では、帯に「生きてるだけで最高だ!」というキャッチフレーズがあり、新聞の四コマ漫画のような簡素な絵で描かれるこの自叙伝的漫画のなにがすごいのか。冒頭から凄いのです。作者の卯月妙子が、歩道橋から地面に向かって紐なしバンジージャンプを敢行するところから話が始まります。

繰り返しますが、これは自叙伝です。そして、なぜそうなったのか、その後はどうなったのか、という話が続きます。

 

作者は一体全体何者なのかと思ったことでしょう。きっとGoogleで「卯月妙子」で検索して、一番上に表示される困ったときのwikipediaを読み込むことでしょう。ということで、こちらに引用しておきます。

 

私生活では小学5年生の時に異常体験が始まり、中学3年生の時に初めて自殺未遂を図る。20歳の時に元夫と結婚。しかし、元夫の会社の倒産後、借金返済のためにホステスやストリップ嬢、AV女優になる。排泄物や嘔吐物、ミミズを食べるなどの過激なAVに出演。カルト的人気を得る。その矢先、精神病を患っていた元夫が投身自殺(正確には植物状態のち死亡)した後、幼少の頃から悩まされていた統合失調症が悪化、自傷行為や殺人欲求などの症状のため入退院とオーバードーズを繰り返し、手の震えから、漫画を描くことすら困難になり断筆状態に陥る。閉鎖病棟と自殺未遂を繰り返しながらも、女優として舞台などで活動を続けるが、2004年には新宿のストリップ劇場にて、舞台上で喉を刃物で切る自殺未遂を行う。3日間意識不明であったが、一命を取り留める。その後、舞台復帰したが、2007年頃、歩道橋から投身自殺を図り顔面崩壊と片眼を失明する大怪我を負う[1]。なお、2011年に舞台復帰。

(引用:Wikipedia

 

と、引用したとおり波瀾万丈という言葉では軽いぐらいに壮絶な人生を歩んでいる人なのです。

なお、縄師Bakushiという映画で顔面崩壊する前はどんな顔をしていたのか見ることはできます。予告編もあります。

 

 

そしてこの本で描かれているのは、舞台復帰したあたりから、大怪我の後に退院して生活に慣れてきたぐらいまでのお話です。

大きく分けると、25歳上の交際相手との自傷や他害や喧嘩をしつつも支えられ過激に愛し合う日々、病院に搬送された直後の異常な幻聴と幻覚の世界、家族と交際相手が明るく温かく優しく支えてくれる入院中の様子、そして要介護となった退院後の経過といった内容になります。

本編の最後は、交際相手を玄関から送り出すコマと「朝が巡ってくる幸せ」「日常の些細なことを繰り返す幸せ」「生きてるって最高だ!!!」というキャプションと共に締められ、一旦交際相手と離れて施設に入ることになる等の後日談が少し載っています。

 

過激に愛し合うと言いました。どれぐらい過激かと言うと、性器に交際相手の名前の刺青を入れるほどにです。卯月妙子は行動が極端に一途で、その前にも旦那の戒名入りの刺青を背中に入れています。そんな極端な行動をまっすぐ受け止め、多少当惑しながらも受け入れてやっていく交際相手の優しさと器の広さ。それは、身を投げて顔面崩壊あとでも全く変わることはなく、人はこんなにも深く人を受け入れることができるのか、と思わされます。

そして母や息子もとても明るく優しいです。退院当日、交際相手とやり取りをした後の卯月妙子の一言でもう涙が止まらなくなった、とはこれを読んだメンヘラの感想です。その一言は是非読んで確かめてみて下さい。

 

「人間仮免中」は自叙伝であり、特にこれと言ったテーマで貫かれているものではありません。近況報告みたいなものと言っても良いでしょう。ですので、どう読み取って何を思うかの自由度は高いです。

自分がまず思ったのは健やかに生きられているありがたみです。それと、たぶん卯月妙子ほど人を好きになることも、交際相手ほど深く相手を受け入れることも、顔面が崩壊しても絶望せず人生を進めていくことも、そもそもそれ以前の重度の統合失調症や配偶者の自殺を乗り越えることも、きっと出来ないだろうなということです。

このレベルのメンヘラを捌く自信はありませんし、恋人が顔面崩壊しても憐れみではなく一緒に居ることができるかと考えるとこれも厳しいところです。交際相手は本物の男という感じがします。僕は偽物の男です。交際相手がいる皆さんはいかがですか、本物ですか。

 

もうひとつは、人は優しくてもセケンは厳しいということです。

交際相手と離れることになった理由は、スキャンダラスな元AV嬢と交際をするなと会社から圧力がかかったこととありますし、実家に帰ろうとすると母親が娘が障害者になったことや顔が崩壊したことを周囲に知られたくなくて、うつ病になってしまう描写が後日談に少しばかりあります。実際のところはただ感動的なだけではなく、ひたすら周りにコストをかける大迷惑な人間という面もあるのでしょう。こういう娘をもつ母の内心もちょっと想像がつかないところもあります。

 

また、手を差し伸べてもらえない人間のことを少し思い浮かべてしまいます。

一人、顔がブスで体型がデブで頭と性格が悪いメンヘラの女の子を知っているのですが、親にも男にも誰にも救われず人生をやっていて、メンヘラ度合いが卯月妙子のように高いわけではないのですが、あれもある意味劇的だなと。悲劇的だなと。

 

そして、あんなに死のうとしているのにこんなに生きようとしている様をみると、どんな強い気持ちもちょっとした脳のさじ加減なのかなということを思います。人間は遺伝子の乗り物という言葉がありますが、生きたいという気持ちも死にたいという気持ちも、そもそも自分の意志なんてあるのかなと。自分が何かを思う強度と、外部的要因に何かを思わされる強度と、後者のほうが強いのではないかという気がしてきます。

 

090さんの記事では締めに良い子は真似しないでくださいとありましたが、こちらはきっと誰にも真似できないでしょうし、真似したくもないでしょう。病みと闇のある世界観の持ち主に憧れる様子は何度か見たことがありますが、彼女と自分を重ねるにはさすが業が深すぎると思います。

おそらくはこのメンヘラ.jpの読者も、大小何かしらの闇や病みを抱えて人生をやっていそうですが、生きてるだけで最高だと思ってもらえたり、そうでもなくても何か感じることがあればこの本を紹介した甲斐があります。

いかがでしょうか、人間仮免中、是非読んでみて下さい。




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