セックスを拒むことしかできない ノンセクシャルな自分への嫌悪感

体験談 ジェンダー ノンセクシャル セックス

彼について説明するのはほんの少しだけむずかしい。たぶんこれは恋じゃないし、だからといってわたしからしたら決して友人ではない。わたしは彼のことが途方もなく大切で好ましいと思っているし、できるならその横顔をだれにも渡したくない。ずっとわたしのそばにいてくれと思う。

「彼」に惹かれている自分に気づいたのはちょうど1年前の今頃だった。その頃、彼とは違うひとを好きになっていて、そのひととの関係性に悩み、いつ線路に飛び込んで死のうかなんて考えていた。わたしは以前の記事で述べられていた方と同じノンセクシュアル(ロマンティック・アセクシャル)で、曖昧な関係にあるそのひととのセックスを恐れていた。そして肉体関係を恐れるわたしを理解できなかったすきなひととの軋轢に苦しんでいた。最終的にそのひとと一緒にいると壊れていく自分、セックスを拒否することしかできない自分への嫌悪感、希死念慮、嫌われたくないからと受け入れていたセックスに近い前戯のような行為への嫌悪感からそのひととはお別れしたのだけど、その後のわたしはほんとうに荒れていて、いわゆる鬱状態みたいな感じだった。

けれど、そのひとを忘れられずいつまでも好きでいる自分に対する解けない結び目みたいなわだかまりも、彼とふたりでいる時間が増えていくにつれてだんだん解けていった。都合のいい話だとわたしも思う。

苦しかった冬が溶けて春が来て、わたしと彼の距離はさらに近くなった。自惚れではなく、女友達が少ない彼といちばん一緒にいる女は今でもわたしだけだとおもう。一日中いっしょにいる日もたくさんあったし、課題をこなしたり、ご飯を食べたりするのも一緒だった。だけどどうしても埋まらない溝みたいなものが大きくあって、一体それがなんなのか、ずっとわからないままだった。

基本的に無口な彼と、あまり話が上手でなく話題が見つけられないわたしは、いつも一緒にいるわりに何かを話すということがあまりなかった。今はだいぶ彼がわたしに慣れてくれて、わたしも彼と一緒にいることに慣れて、彼から振ってくれる会話も増えた。だけど、仲良くなりすぎてしまった気もする。

長く一緒にいることで、だんだん彼のことがわかるようになってきた。基本的にひどく自分に自信がなくて、人間不信気味であること。優しいけれど他人に期待しないから簡単にひとに近づいたりしないこと、自分の欲求だけで世界が完結していて、それだけで生きているからあらゆることに興味を示さないこと。そして、自分に自信がなく人間不信気味であるということ以外はわたしと正反対の特性であるということも、同時にわかった。たぶん「彼は、だれかに見捨てられても気にしないだろう。そもそも見捨てられるという概念すら存在しないかもしれない。きっとひとりきりでも大丈夫。なのに瞳の奥に孤独があるのは何でなんだろう。わたしは見捨てられるのが、見限られるのがこわくていつも怯えているから、そういう根本的な対象関係尺度が全然違っていた。だからわたしはきっと彼のことを無関心そうなひとだと思うのだろうし、なにごとにも無頓着なひとだと思うのだろう。

一緒にいる時間が長いから、わたしの存在が邪魔にならないか、いつもそればかり気にかかっている。きっとそれは無頓着な彼の前では自意識過剰な心配ごとなのだろうけれどわたしは何度それを言いかけて、いつもそばにいてごめんねと謝りかけて、それでもその美しい横顔や今わたしのそばで生きているその存在に目を奪われて口をつぐんだことか。もちろんだれのものにもならないで欲しいし、彼女なんてつくってほしくないのだけど、でもわたしはセックスができない女だから、たぶんまた価値がないと言われてしまうんだろうな。前みたいに。そういう葛藤が邪魔をして、わたしは彼との関係性に名前をつける努力ができない。胸を張って好きだと言えない。わたしの偏見だと思うけれど、男のひとに身体の関係を抜きにしてわたしと付き合ってなんて言えない。またいなくなってしまう。また見限られてしまう。

だけど、それでももうわたしは祈ってしまっている。だれよりもいちばん近い距離でその髪に触れ、その呼吸に触れ、その言葉を受けること。ただ隣にいるだけでゆるされるような存在証明をすること。もうどうしようもないほど祈ってしまっている。彼の隣にいることを。

いつまで隣にいることをゆるしてくれるだろう。彼は水みたいなひとだから、いつかほんとうに蒸発するようにわたしのそばからいなくなるかもしれない。その日のことを考えると身体が震えてしまう。それでもいつか別れは絶対に来るから、いつまでもわたしのそばにいてくれるわけがないから、もしも彼に恋人やすきなひとができたら、わたしは腰まで伸ばした髪をバッサリ切ろうとおもっている。


【執筆者】
夜 さん

【プロフィール】
はたちになったばかり。写真を撮ることと言葉を使ってものを伝えることが好きです
note:https://note.mu/713129_hmd


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3件のコメント

野菜 返信

>でもわたしはセックスができない女だから、たぶんまた価値がないと言われてしまうんだろうな
これは違うと思いますね。他人に期待しない彼は、その辺どうでもいいと思ってる気がします。

今の関係が心地いいから一緒にいたい旨、伝えても「そう?物好きだね」とOKしてくれるかも。
ただ、普通の彼氏に期待するようなことは期待しないでくれと言われると思いますが。

お互いに期待しないカップルや夫婦も、いる所にはいると思います。
走る哲学者の為末大さんも、結婚する際「お互いに期待しない夫婦でいよう」と約束したそうですし。

彼が水なら、貴女は猫のように自然に不遜に悠然と傍にいてもいいと思いますよ。

のぞみ 返信

私は、夜さんと彼の関係、なんだか良いなと思います。
ただただ人として好きで、精神的な繋がりがお互いを幸せにできるなら、肉体的な関係なんてなくても良い気がします。
確かに彼がどういった考えの持ち主かは、私には知ることができませんが、少なくとも私はそういった考えですし、ひとりでも生きていけるような彼だとしても、ひとりで生きていけるからって、回りの人を切り捨てて生きていくような無茶苦茶なことはしないと思いますよ。
現に今、夜さんと仲良くしてるということは、ひとりより夜さんと一緒にいることを彼自身が選んでいるんじゃないでしょうか。

返信

夜です。コメントを2件も頂いていたのに気付かなくてごめんなさい。
あれからいろいろと考えて、今では、ようやく目を合わせて笑ってくれるようになった彼のことをこれからもずっと大切にしたい、でもそれは恋人同士という関係じゃなくてもできるんだろうなと思っています
今はわたしの方も自分のことで精一杯で、告白やお付き合いといった儀式的なものをする体力も気力もないので、少しずつ、ゆっくり時間をかけて彼の横にいて、まだ知らない彼のいろんな側面を見たいとおもっています

今回 野菜様とのぞみ様に頂いたコメント、しっかり保存させていただいて、どうしようと思った時に読み返させて頂こうと思っています。お返事が遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました

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