発達障害と犯罪の関係性 タブー視を越え「現実」を直視する為に

コラム

2018年6月9日、東京発新大阪行きの東海道新幹線「のぞみ」の最終便で、男が乗客にナタなどを振るい、男性1人が死亡、女性2人が重傷という事件が起こりました。

この事件を受けて、毎日新聞は2018年6月10日「新幹線殺傷:容疑者自閉症?「旅に出る」と1月自宅出る」との見出しで事件を報じました。[1]

これはインターネットなどで「自閉症を犯罪を結びつけてネガティブな印象を植え付けてる」との批判が相次ぎ、毎日新聞は所謂「炎上」状態となりました。

その後見出しからは「自閉症」の語句が消え、また本文からは「自閉症と診断され、昨年2~3月には岡崎市内の病院に入院していた」という箇所が削除され、毎日新聞は「新幹線殺傷の事件で、発達障害について不適切な記載をしていました。ツイートを削除しておわびします。」と謝罪しました。[2]

毎日新聞の報道姿勢に問題があることは事実だと思いますが、一方で現在自閉症やその特性と犯罪の関連性に言及することが過剰にタブー視されている現状があります。発達障害は「血液型」と同じような個別記号としての意味合いしか持たず、犯罪には関係が無いという見方が正論だとされていることが多いのです。

確かに病気や精神障害とラベリングされた方たちに、犯罪というネガティブなものを関連付けるのは、常識的には正論とはされにくく、また「こんな犯罪をする方は病気や障害に違いない」とする不当なラベリングにも結びつきやすいです。

一方で、こうした見方を無根拠に肯定し断言しても事態がよくなるとは限りません。

実際に関係があるのかないのか精査したうえで、もし関係がないなのであれば明確にソノ事実を示す必要があります。勿論、そのような分析や研究自体が自閉症や発達障害者への差別や犯罪者予備軍という見方を広める危険性もあります。

それを踏まえたうえで、検証材料として自閉症他発達障害と犯罪との関連性を調査した研究を見ていきたいと思います。

(尚、本文で言う発達障害は発達障害者支援法第二条に順じ「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」として定義します)

 

発達障害者の犯罪率は有意に高い

2004年、東京家庭裁判所は同年7月1日から10月末日まで4か月の疫学調査を行いました。

その期間において東京家庭裁判所が受理し、調査官が通常の面接調査をした全ケース862人(14~19歳の男女)について、保護者、学校教師らの情報も加えて広汎性発達障害とADHDが疑われるものを抽出しました。

結果としては、ADHDの疑いがありとされた方が49人、全体の割合では5.6%、広汎性発達障害の疑いはありとされた方が24人、全体の割合では2.7%でした。[3]

一方で発達障害者の全体の割合ですが、DSM-Vという米国精神学会の診断基準ではADHDの割合は5%とされており、また同基準で自閉症スペクトラム全体は1%とされてます。

また2002年文部科学省により行われた小中学生41579人の調査によれば、ADHDの疑いがありとされた方が1040人、全体の割合では2.5%、広汎性発達障害の疑いはありとされた方が330人、全体の割合では0.8%、また両者の重なりは全体の割合で0.4%でした。[4]

単純比較は難しいですが、2者の出現率は文部科学省調査を2~3倍上回り、機械的に判断した場合は犯罪への親和性が高いことが伺えます。

また同じ傾向の研究結果もあります。

例えば崎濱盛三及び十一元三が2004年に日本児童青年精神医学会総会で発表した研究によりますと、家庭裁判所で受理した一般少年保護事件においてアスペルガー症候群の割合は確診6.3%、疑診7.9%、アスペルガー症候群は6.3%から両者を合わせた14.3%までの範囲で観察されたとしています。[5] 他にも2008年東京社会福祉大学の研究では、日本の少年裁判における広汎性発達障害の割合は1.3%から6.7%としています。[6]

こうした研究結果を見て、機械的な判断を下すなら「発達障害者の犯罪率は有意に高い」ということが言えそうです。

 

発達障害と犯罪の性質

結論から言えば、広汎性発達障害と診断あるいは鑑別された方の犯罪事例は性非行(売春、強制猥褻、強姦)と放火の割合が突出しています。

東京都立梅ヶ丘病院による2005年に触法行為のある広汎性発達障害者の13症例の調査によれば、性非行が5例、傷害・暴行が4例、窃盗が4例、放火が3例です。[7]

また2004年藤川洋子・阿曽直樹・須藤明による広汎性発達障害と診断、あるいは鑑別された32の非行では性犯罪が14例と最も多く、傷害・暴行が6例、窃盗が5例、放火が2例です。[8]

因みに、司法統計の主要な罪名別人員では、窃盗が刑法犯全体の4割を占めており、性非行は1%未満であり、放火は0.1%です。[9]

動因としては「対人関心接近型」及び「実験型」が多く、社会性の障害や衝動性が触法行為に繋がると考えられています。

(勿論、こうした触法行為は発達障害が直接的な原因とは言えず、複数の要因が絡み合っていることは殆どですが、それをもって「発達障害は犯罪の素因ではない」と断言は出来ません)

 

発達障害と犯罪の関連をタブーとすること

2005年目白大学によれば東京都発達障害者支援センターにて2004年に相談受理した442例のうち1割を超える46例に、家族を始めとする他者への激しい暴力、器物破損がみられました。[10]

すなわち、発達障害者の触法行為は「家族」という人的シェルターによって抑えられてる面もあります。家庭内の問題は家庭で解決すべきと見られがちですが、例えば佐世保女子高生殺害事件において自閉症とされる加害者女子生徒は、日常的に父親をバットで殴っていたとされています。

このレベルの暴力がどれほど発達障害者を有する家庭で起きているかは不明ですが、これほどの暴力行為を1家庭で対処するのは困難です。

しかしながら、現在はこうした公的サポートは少なく充分に対処されているとは言えません。

発達障害と犯罪の関連を取り上げることは、様々な問題があると思います。

一方で、発達障害と犯罪との関連を「無い」モノとして扱うのは、今現在ソレに苦しんでいる方々を黙殺するのに等しい行為です。

毎日新聞が新幹線殺傷事件の報道には問題があるとは思いますが、一方で発達障害と犯罪との言及を過剰に抑え込んだとしても、それでは救われない方々もいます。

発達障害と犯罪の関連性について語るのを避けるのは、当事者を不要な差別や偏見から守ることになりますが、同時に対応策の研究や支援方法の集積を封じ、問題を放置することにも繋がります。

「発達障害と犯罪」はタブー視するだけでは決して解決出来ない問題です。

 

【参考資料】

1.「新幹線殺傷:容疑者自閉症?「旅に出る」と1月自宅出る」 毎日新聞

2.毎日新聞さんのツイート"新幹線殺傷の事件で、発達障害について不適切な記載をしていました。ツイートを削除しておわびします。"

3.青年期の高機能自閉症・アスペルガー障害の司法的問題--家庭裁判所における実態調査を中心に

4.「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」 調査結果

5「非行事例の鑑別における児童精神科医の関与の必要性-広汎性発達障害が疑われた事例の調査をもとに」第45回日本児童青年精神医学会総会

6.Prevalence of pervasive developmental disorder in juvenile court cases in Japan

7.広範性発達障害と触法行為に関する医療機関における実態調査

8.広汎性発達障害事例についての実証的研究--調査及び処遇上の留意点

9.平成28年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節

10.青年期・成人期における高機能広汎性発達障害にみられる反社会的行動に対する社会的支援システムの構築に関する研究


【執筆者】
脱税レイヤ-風呂屋さん

【プロフィール】
脱税がバレて風俗堕ちしたコスプレイヤーの裏アカウントです。表でまだ活動はしています。追徴課税本税&延滞税3200万円完納。何かあればDMかこちらまでpakabenkaiji@gmail.com

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2件のコメント

@AUE_OEDA 返信

長文、お疲れさまでした。累犯障害者の問題とあわせて考えると、このタブーへの問題提起、非常に意義深いものと考えます。

現状、私が懸念するのは、公判前のこの段階で「自閉症」「発達障害」というワードが、基本的に被疑者家族への取材の中からしか出てきていない点です。
養子とした祖母に至っては、自閉症と発達障害の区別がついていない事がインタビューの動画からも明らかです。また、実母が入居をコーディネートした自立支援施設は主に生活困窮者向けであると報道されており、医療的アプローチが希薄であった事もうかがえます。

「言及のしかたでマスコミが炎上」ではなく、「ただ単に言及が時期尚早に過ぎた」と考え、自分としてはマスコミには、公判開始と共に積極的な障害・病態への言及と専門家意見のすくい上げを行って欲しい、と考えています。

どのような診察・保護・治療・養護・教育その他が行われてきたのかは、法廷でおおむね明らかになるでしょうが、現状で推察できるのは被疑者の衝動性と家庭内暴力(本文中にある『人的シェルター』ですね)が破綻に次ぐ破綻を繰り返した結果、被疑者は野宿を繰り返し殺人事件を犯し、世間の耳目を集めてしまった…………という結末からの逆算のみです。

また、被疑者当人は精神科に短期間任意入院していますが、これも穿った見方をすれば、医療保護入院という強制的な医療措置を、患者(被疑者)自身が知恵を廻して忌避したのでは? とも考えてしまいます。
実際、被疑者は自立支援施設入所中に大きなトラブルは起こしておらず、『暴力衝動のTPOを選べるソーシャルスキル』を一時期保持していた事も、彼の病態に対する疑念として、大きいものがあります。
(当然、『この時期のみ服薬管理が良好だっただけ』という可能性もありますが)

(続きます

@AUE_OEDA 返信


彼は本当にADHDまたはASDの診断が下っていたのか、またそれはいつの段階なのか、当時養育義務を負っていた両親が、エビデンスに基づいた標準的な医療を彼に施していたのか、投薬があったのならば服薬管理はいつからいつまでできていたのか、検証されるべき点が山ほどこれから出てきます。

こういった状況が明らかになっていく今後こそ、マスコミは公判開始と共に、積極的に彼の精神障害の経過と医療行為への言及をする責任があるはずだ、と考えます。

それは言うまでもなく、社会復帰を模索し続け闘病中である、真っ当な精神障害者と家族への偏見を除去する流れに繋がります。また同時に、障害を覚知した当事者・家族に向けて、エビデンスのある対応策がマスコミによって周知される、という少しばかりマシなサイクルに繋がってゆく筈です。

このまま行くと、裁判の進行いかんでは、「マスコミがお決まりのラベリングで炎上」という枕噺をひっくり返し、未成年段階での養育者による重大な虐待(例えば医療へのアクセス拒絶)ほか、「そんなん発達障害以前の問題じゃないかコレ?」というおぞましい何かが見えてくるのではないか、という感触すら、あるのです。
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私自身、ADHDである事をオープンにして職場復帰したばかりです。
既に「ヤツの前であの事件の話はするな」という無駄な気遣いが発生するなど、今後の事件報道・公判の進行いかんでは自分自身のメンタルが大打撃を受けそうな問題であるだけに、どうにもモヤモヤした長文コメントとなってしまいました。ご勘怒ください。

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