「育て方を間違えてごめんなさい」 息の詰まる実家を脱出した私に、親から届いた一通の手紙

コラム かぼちゃ

「少し遅れましたが、お誕生日おめでとうございます。突然の手紙で驚いているかと思いますが、謝りたいことがあってこの手紙を書いています。それは、親として至らないところが多々あったことについてです。考えを押し付けるようなことを言ってしまったり、言うことを聞かないときに頭を叩いたりしたことが何度もありました。はじめは自分の子供への躾のつもりでしたが、いつの間にか、親としての権威を保つための行動に変わっていました。本当に申し訳なく思っています。」

アパートに届いた、父親からの手紙だった。家族の誰かが病気になったとか、重たい話が綴られていると思い込んで、震える手で封筒を破いた自分がバカみたいだった。

 

私は9歳のときに不安障害と診断された。いじめなどのトラブルなく過ごしていた自分にとって、原因となりうるのは家庭環境しかないと、ずっと昔から確信していた。

両親にされてきたことはとても些細なことばかりだ。楽しくテレビを見ていたのに「これ面白くないからいいよね」とチャンネルを変えられる。力になりたくて風呂掃除を手伝えば「下手くそ、もうお母さんがやるから」と追い払われる。仲の良かった男の子と近所のケーキ屋さんに行く約束をずっと前から伝えていたのに、当日になって「お前には早い」と父に激怒されキャンセル。

教師をしていた父は、勉強は教えてくれたけど、ひとりの人間としての生き方は教えてくれなかった。両親は私に「自分達の邪魔にならないこと」と「危ない目に合わないこと」だけを望んでいた。料理の手伝いは下手くそで邪魔だし、包丁やコンロで怪我の危険があるからやらせない。外出は制限しないと、誰とどこへ行くかわからないから家に閉じ込めておく。地味な格好をして誰とも関わらず、勉強をすることだけが私に許された「自由」だった。

私は特技である勉強を生かして、この息の詰まる家を脱出した。県内にはない高い偏差値の大学に進学して、一人暮らしを始めたのである。しかし、「箱入り娘」であった私に、一人暮らし、ひいては大学生活は難しすぎた。

初めは自炊に挑戦したけど、玉ねぎを切るときに指も切ったり、食材を腐らせたり、食べられる箇所をそうと知らずに捨ててしまったり、失敗を繰り返す中で「やっぱり私にはできない」という気持ちばかりが膨らんで、学食やコンビニ弁当で済ませるようになった。

友達の家でたこ焼きパーティーをしたときもしんどかった。皆は準備のときから楽しそうで、軽快に具材を切ったり、ダマにならないように粉を混ぜたりするなか、私は透明人間になったような気分で、使い終わった器具を洗うくらいしかできなかった。ましてや、たこ焼きを焼くなんて全くできなかった。料理のできない劣等感と、役立たずは追い出されるのではないかという恐怖心で心臓がバクバクした。みんなが焼いてくれたたこ焼きを食べながらお喋りに花を咲かせていると一時的に気は紛れて、それでも家に帰ると「嫌われたのではないか」「自分はいらない人間だ」という気持ちでじっと布団にくるまるしかなかった。

コンビニでバイトをしていたこともあった。私の仕事はレジの他にもあって、それは唐揚げやフライドチキンを揚げるあの機械の掃除だった。私は要領が悪くて機械の掃除が他の人よりものすごく遅かった。大きな失敗もした。あの機械のなかの数リットルの油を、すべて床にぶちまけてしまったのである。これをやると片付けに1時間以上かかるし、しばらく床が氷のようにツルツルになってしまう。この失敗そのものはよくあることで、「みんな1回はやるよ、次からは気を付けてね」と言われたのだけど、私は3回もやってしまった。きっと周囲の人たちはみんなイライラしていたと思う。直接怒られたことはなかったけど、いつクビにされるのかとビクビクしながら働いていた。

そうして働くなかで半年も経たず鬱になって、バイトを辞めたいと申し出たが、人手不足と、私が「1年くらいは続けたい」と言って採用になったことを引き合いに出され、認められなかった。バックレる勇気もなく、言われるがまま1年働いて辞めた。

大学の勉強も面白くなかった。私は勉強が好きなのではなく、両親や周囲に認められるため、そして自分自身の存在を確かめるために勉強をしてきたのだと気づいた。興味がないのに単位のために勉強をする、脱け殻のような自分がいた。他にやりたいこともないし、あってもバカにされるだけだし、休学や中退をする元気もなかった。知らず知らず乗っかっていたレールの上で、振り落とされないように生きるしかなかった。

 

自分の今後の人生がどうなっていくのかは分からない。

でも「至らない親」に育てられて、セミの脱け殻みたいに、空っぽで、何の役にも立たなくて、簡単にぺしゃっと潰れてしまう、自分はそんな存在だということは分かった。

今はただ、どうして産んだのか、どうして生きているのか、という気持ちしか湧かない。



【執筆者】
かぼちゃ さん

【プロフィール】
惰性で大学院まで来てしまった社会不適合者
Twitter:@akinokabocha


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