母親から離れる決意 部屋の片付けがきっかけで実家を脱出した話

体験談 アダルトチルドレン いろり 気分変調症(持続性抑うつ障害)

「ワケアリ女子の巣って感じね」

すでに鍵をもらっていた私は、入居日の前日に初めてこれから住む家を母に見せた。母は104号室に入るなりカーテンを開け窓を開け、外の景色を確かめ言った。

笑ってしまう。自分の娘がワケアリだと言う、そういう物言いには慣れてしまった。それでも母は少しさみしそうだった。

 

「死にたい」としか言えなかった過去の自分を、分かってあげられるようになるまで

前回コラムを載せていただいてから早3ヵ月が経とうとしている。

自らの文章を発信できるブログやTwitterは随分前から利用していたし、ノートパソコンのフォルダには誰にも読ませることのない戯言が溜まっているのだが、他人に自分の文章を読んでもらい、ウェブサイトに載せてもらうというのは初めての経験だった。

文章は自分の中でプライドを持っている部分だからこそ、批判されることや断られることが怖くて今までは積極的になれなかった。載せていただけたということやまた書いて送ってみようと思えたことが、私にとってまた私のメンタルヘルスにとってとても嬉しいことだった。

しかし、2018年9月、私はアルバイト先の店長に「1ヵ月休ませてほしい」という旨の長いメールを送りつけ、一方的に長期休暇をとる事態になってしまっていた。

いろんなことはやってみた。でもとっくに限界だったのだと思う。8月はとくに仕事が忙しい時期で連勤が続き、それが終わった途端ブツンと何かが切れたようにある夜発狂してしまったのだ。

発狂。大げさな言葉を使うのはよくない。けれどそれ以外の単語であの奇行は説明できない。連勤の後のたった1日の休みが光の速さで終わり、また明日からと思うと眠れなかった。その当時は10時間寝ても朝は絶望から始まった。もう朝なわけがない、だってこんなに身体が重くて動かないんだから。

だから眠れないというのは翌朝の絶望をさらに深めることを意味していて焦る。焦れば焦るほど頭は愚にもつかないことをびゅんびゅんと考えなさる。

店長の顔、先輩の顔、いい子ちゃんぶった私、イヤと言えない私、笑顔の裏で死ねって思う私、先輩の冷たい声、働くこと、お金をもらうこと、お母さん、生きること、やめたい、休みたい、寝たい、世間、休みたい休みたいどうして、休みたい、助けて。

がばり!と勢いをつけて布団を剥いで、暗い自分の部屋を眺める。深夜3時になっていた。ぶつん!という音がして(していない)、その闇がどろりと目から侵入し、身体をぐるりと一周した後眼球の内側から涙を強引に押し出してきた。

私は、声も出せずに号泣し始めた。

 

その家にはおととしの2月に住み始めた。そのまた1年前に父親が死んだために経済的な理由で母親の実家に引っ越したのだ。何十年か前には母と母の妹が使っていた部屋を、私と私の妹が使うことになった。大きな一部屋の真ん中にじゃばらの仕切りを取り付けて二部屋として使うようになっていて、姉妹間のなにもかもはほとんど筒抜けだった。

もっとも前に住んでいた家でも同じ部屋に住み2段ベッドで一緒に寝ていたのだからむしろマシな環境になったのだが。そのおかげで私は声をださずに号泣する癖がついた。

もういやだ!と思った。どうして生きなきゃいけないの!と喉が叫んだ。

もうこのままじゃいられない!

私はぼたぼたと涙をiPhoneに垂らしながら、店長に明日休むというSMSを送った。時刻は4時。発狂はそのあと夜が明けるまで続いた。

このままじゃいられない!という言葉が、涙とともにやっと外にでてくれたと思った。仕事に行ってしまったらいい子ちゃんの私が「このまま」を私に強要してしまう。「このまま」は楽だ。働けばお金がもらえる。貯金もできる。でも心が死んでしまう。このままではいたくない、そうでないと同じことの繰り返しになる。

だから仕事を休むことにした。それで何をどう変えるのか決まっているわけじゃなかった。ただもうこのままでは限界だった。

何日か仕事を休んだ後、一生懸命店長にこのことを話した。メンヘラに理解のあるその店長はとてもよく話を聞いてくれた。それでも休んでいいよとは言ってくれなかった。少人数の職場であるから仕方ないが、もう自分が伝えられる方法で言うしかなかった。

結果的にメールで一方的に長期休暇(療養)をとりますと連絡してしまった。店長はきちんと休みを了承する返信をしてくれた。

 

9月1日。私は26歳になっていた。人生にわからないことがあると、いつも本に頼った。発狂後も彼とブックオフに行ってエッセイの棚をくまなく見て今の自分を変えられるようなそんな本を探した。

自己啓発本だとか流行りの心理学の本だとかはあまり好んでいなかったが、背に腹はかえられない。普段手に取らないようなタイトルの本もパラリとめくってみた。

『自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ(著・岡映里 KADOKAWA出版)』

結論から言うと、私はこの本をきっかけに実家を出てシェアハウスに入居することになる。

今になってアマゾンでこの本を見ると評価はそんなによくはない。いつも通りネットで本を探していたらきっと手に取らなかっただろう。書店に行くメリットはそこにある。誰にも左右されずに自分の感覚で自分に良いものを買える。

特別変わったことが書いてあるわけではない。部屋を掃除する、使う言葉を前向きなものに変えるなど「そんなことで」と思われることばかり。だけど私はまず「ゴミ屋敷を片付ける」という章で「自分でなんでもやらずに人に頼る」という言葉に驚き、この本を信用することにした。

かくいう私もゴミ屋敷の住人だった。小学生のころから部屋は足の踏み場もないほど洋服や本やペットボトルなどのゴミがあり、それは9月当時もそうだった。

片付けられないというコンプレックスは根の深いもので、何度も家族と喧嘩になったし母親にはすでに諦められていること自体がつらい、が、片付けることができない。物心ついたころから26歳までずーっとずーっと自分の大嫌いなところだった。

家族以外にはこんな惨状を見せてはいけないから、いつかは自分一人で片付けられるようにならねばならない。そんな風に思っていたが、著者は業者を使って物を捨て部屋を片付けていた。目からウロコだった。『部屋は自分で片付けるもの』と決めつけていた自分にまた驚いた。

昔は母が休日に突然強制的に入ってきて「片付けるわよ!」と始めだし「いるの?いらないの!?」と怒鳴られながら呆れられながらやられたものだから、本当に嫌だった。だから人と片付けるという選択肢がなかったのか。それはわからないが。

本を読み終えた私はまず彼を部屋に招いた。9月も半ばになった頃だった。「一緒に部屋を片付けてほしい」と言ったら快く引き受けてくれた。その彼と5時間片付け続けた。

もう着ない服を袋に、本を本棚に、あちこちにあるペットボトルを捨て、ベッドを動かし下に入り込んだものをかき出し、掃除機をかけ雑巾をかけ見違えるほどに部屋は片付いた。

毎日毎日起きたときも帰ったときも「きったねえ部屋だな」と毒づき心を暗くしていたのに、彼と二人でやるだけで半日かからずに綺麗になった。なんだ、やればできるんじゃないか。綺麗になった部屋を見て、これでようやく家を出ることができると思った。

 

本を買った後から部屋を片付けるまでに、某有名メンタルクリニックを受診していた。もちろん通院中のクリニックはあるのだがそれでも発狂が起こってしまったため、他の先生に診てもらいたいという気持ちが強かった。

クリニックではたっぷり40分かけて面談があり、結果私は気分変調症(持続性抑うつ障害)と診断された。広くはうつ病と言われるけれど、あなたは一般的に言われるうつ病ではない、と。

さらにそのあとカウンセラーによるカウンセリングを受けた。30分かけて自分の過去、現在について一生懸命話すとカウンセラーさんは「そんな大変なことを笑って話すなんて」と親身に聞いてくれ、「簡単よ、母から離れることのみね。あなたはうつ病じゃない。先生は正しい」と教えてくれた。

私は今まで、今とは違う薬を飲んだり長期間何もせず休んだりすれば何かが変わると思っていた。だってうつを治す方法としてどの本にも書いてあることだし、私は自分のために労力なんて使いたくなかったから。

家を出ることや母から離れることはさんざんいろんな人から言われてきた。それが最良かつ最終手段だということはわかっていたけれど、どうしても自分にできると思えなかった。経済的にも家事能力的にも精神的にも。

“自分のために”大金を使って部屋を借り、家賃を払うために働き、“自分のために”食事を作る、洗濯する……そこまでして自分を生かしたくなかったし、生かす努力ができるか不安だった。

けれど死ぬこともできない。どうせ生きるならもう少し楽になりたい。クリニックを変えても言われることは同じだったし、母の傍にいながらできることはもうすべてやったはずだ。

家を出てひとりで暮らすことが一番よい治療方法なのだと私は覚悟を決めた。

 

そして部屋を片付けた日の2日後、ネットで見つけたシェアハウスの内見をし、2週間後に契約、引っ越し、入居。今はそこでこれを書いている。

どうしてシェアハウスを選んだのか?シェアハウスではどんな生活なのか?家賃はいくらなのか?などなど、そういった話を次のコラムでは書いていきたいと思う。


【執筆者】
いろり さん

【プロフィール】
古本屋で働く二の腕むきむきメンヘラ女。母親が毒でACだけど、心療内科に通いながらなんとか自分の幸せをつかもうとしている。


【募集】
メンヘラ.jpでは、体験談・エッセイなどの読者投稿を募集しています。
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2件のコメント

機械じかけ 返信

>”自分のために”大金を使って部屋を借り、家賃を払うために働き、“自分のために”食事を作る、洗濯する……そこまでして自分を生かしたくなかったし、生かす努力ができるか不安だった。

やったことと変わっていくことのプロセスがとても整理されて文章にされていて、回復のヒントがたくさんもらえました。↑上の踏み出しもとても感銘を受けました。

いろり 返信

お返事が遅くなり申し訳ありません!
あまりに嬉しすぎてお言葉を噛み締めているうちに3日も経ってしまいました。
誰かにとってのヒントになればと思いながら書いたものなので本当に本当に嬉しいです。
読んでいただけただけでもありがたいですのに、コメントまでいただけて感無量です……
本当に書いて良かったです!
ありがとうございます。
シェアハウス篇はまだ続きますのでお目に留まりましたらぜひまたよろしくお願いします。
本当にありがとうございます、

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