【取材】就労移行支援事業所TODAY 支援者と当事者の壁を壊す

コラム 就労 就労継続支援事業所 メンヘラ.jp編集部

「就労移行支援」という言葉をご存知ですか?

「就労移行支援」とは、一般企業等への就労を希望する人に、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うサービスです。国が政策として行っている障害福祉サービスのうちのひとつであり、訓練等給付に分類されます。他にも「就労継続支援(A型・B型)」や新しく制定された「就労定着支援」があります。

参考:障害福祉サービスについて-厚生労働省

簡単に説明すると、ケアを受けながら働くためのスキルを身につけるところができるサービスといったところでしょうか。ひとくちに「ケア」「働くためのスキル」といっても多様であるように、どのようなケアが受けられるのか・どのような訓練が受けられるのかも事業所によって様々です。

このサービスが就労を希望する当事者にとって有益な選択肢の一つであることは間違いないと思いますが、当事者が実際にサービスを利用するまでには二つの大きな壁があると感じています。

一つ目は、あまり周知されていないということ。「就労移行支援?よく分からない」という人が多いということです。

実際に、メンヘラ.jpの読者から集計したアンケートでは55%の人が「知らない・知りたい」と回答しています。(n=403)

そして二つ目は、就労移行支援に対しての不安が払拭しきれていないということ。

こちらも読者にアンケートを実施したところ、一番多かった回答が「利用することに不安がある」というものでした(34%)。周知されていない・就労移行支援についてよく分からないからこそ不安があるのだと思います。(n=201)

しかし一方で「利用してみたい」という前向きな意見も「不安がある」に次いで2位の回答です(30%)。

つまり、情報がちゃんと広まって不安が払拭できれば、「就労移行支援を利用する」という決断ができる人が増え、就労意欲を持って就労に繋がることができる当事者も増える可能性があるのです。

私たちは就労意欲を持った当事者が自分の意志で就労できるように、ひいては自分の理想的な生き方を実現できるように、そのためのひとつの方法として「就労移行支援事業所」について広く知らせていたいと考えました。

そこでメンヘラ.jpでは、三鷹と吉祥寺に事業所を構える就労移行支援事業所TODAYさんに取材を敢行。

・事業所代表の荒関さん
・現役利用者のAさん
支援員の阿久津さん

就労移行支援にそれぞれ異なる立場で関わる3人のインタビューから「就労移行支援」の素顔に迫ります。

 

【目次】

・事業所代表 荒関さんに聞く「自己理解」の重要性

・現役利用者Aさんに聞く「ぶっちゃけ、就労支援ってどうですか?」

・支援員 阿久津さんに聞く支援のコツ「支援者と当事者の壁を壊していく」

・まとめ 就労移行支援を上手く活用するために

 

事業所代表 荒関さんに聞く「自己理解」の重要性

メンヘラ.jp編集部(以下、編集部)
本日はよろしくお願いします。今回は二つある事業所のうち吉祥寺にお邪魔しておりますが、三鷹にある事業所との違いなどはあるのですか?

就労移行支援事業所TODAY代表荒関さん(以下、荒関さん)
はい。こちらでは主に精神疾患と発達障害などにフォーカスしていて、スペースも分けてそれぞれ全く違うプログラムを用意しています。

というのも、精神疾患は主に後天的に患うものであることに対して、発達障害などは先天的な特性と言われていますよね。ですので、精神疾患をお持ちの方は、自分のモニタリングやコントロール方法などについてのスキルを身につけていただくプログラムが中心です。そして発達障害などをお持ちの方はご自身の特性を把握して、得意分野をいかに活かしていくかというところに注力しています。

編集部
なるほど。主にどういったプログラムをされているんですか?

荒関さん
精神疾患をお持ちの方は自己理解とセルフマネジメントがメインですね。一日を通して1限から4限まであって、1コマの中ではまず10分講師が説明します。そして30分ほどワークをして、残り時間でみんなでディスカッションするという流れですね。ワークを通して自分について書き出したり発言したりすることで自己理解を深め、それをフィードバックされることでさらに深い自己理解を得る、ということをやっています。

具体的には、例えばSSTと自己理解を深めたりコミュニケーションをしたりするものであったり、ビジネスマナーをやったり、自分の傷病についての知識を学んだりということを積極的に取り入れています。特にうちの強みという点でいうと、「自己理解」という言葉がキーワードになってくるんですね。

編集部
自己理解、ですか。

荒関さん
はい。まずは自分の傷病や性格をちゃんと認知するということがスタートになるんです。そこをちゃんと認知したうえで、できるだけコントロールできるようにしていこうということですね。

例えば就業中にうつの症状が出たというときに、それが世の中一般的にはどんなもので、自分はそれに対してどんな症状が出るのかということを認知してもらいます。そしてそれを薬でコントロールするんだとか、思考の部分でコントロールするんだとか、あるいは外に出て陽の光を浴びて気持ちを切り替えてコントロールするんだとか、そういうふうに対処できるようになる必要があるんです。やっぱり働きだしても突然落ち込んでしまったり症状が出てしまうことはあるので、そのためのセルフマネジメントですね。

うちでは毎日、皆さんにこういったノートを書いてもらっています。

編集部
細かく記入欄がありますね。これで毎日自分の体調や状態を把握しながらプログラムを受ける、と。

荒関さん
そうなんです。記入するのは体温、血圧、あとはメンタルの状態です。体温や血圧は体調管理の部分ですね。我々が利用者さんの通院に同行することもあるので、主治医に情報を伝えるために記録してもらっています。あとは服薬状況についても書いていただいていて、しっかり服薬しているかどうか確認しています。

メンタルの状態については午前と午後で%として表しています。例えば午前が20%、午後が90%だったときに、双極性障害をお持ちの方であれば20%が問題なのではなくて、90%、つまり上向きすぎていることのほうが問題なんですね。このあたりをマネジメントしていかない限り、次の日にドンっと落ち込んでしまったりしますので、ここをちゃんと書いていって理解しながら、どうしようかということを職員と一緒に考えていきます。

編集部
これを毎日蓄積していくことで自分の心の調子みたいなものをしっかり把握できるということですね。

荒関さん
そうです。あとはこういうものも書いていただいています。

ちょっと大変なんですが、何時に寝て何時に起きたとか、何をしたかとかっていうのを書いてもらっています。こういったものを使って、傷病を理解してコントロールする。TODAYには生活リズムが完全に逆転している方が来られることも多いので、まずは生活を安定させるということを目標にしていますね。

例えば、TODAYに来ることは出来ているけど夜寝る時間が極端に遅かったりすると生活リズムは整わないので、睡眠導入剤の使い方なども含めて一緒に考えて実践します。

編集部
徹夜して来ちゃったりすることもありますよね。帰宅したらすぐ寝ちゃうとか。

荒関さん
ありますね。それでまた翌日も頑張って来てくれるけど、途中で寝ちゃったりして。

例えば、双極性障害の方ってバイオリズムが難しくて。どういうバイオリズムで上がったり下がったりするかってご本人様にもわからないことが多いんですね。そういう場合にこの記録をしっかり取ると症状の波がわかるんです。

今はもう卒業して就職した方の例ですが、うちに入ったばかりの頃は結構波が激しくて、よく泣いてしまったり気分のコントロールが難しい状態だったんですね。でもこのシートに毎日記録していくと、睡眠時間が8時間を切った段階で波が激しくなるということがわかったんです。それで、睡眠時間は毎日8時間確保するということを決めて実行していった結果、どんどん波が落ち着いて、安定して過ごせるようになりました。

編集部
なるほど。まさに自己理解・自己コントロールですね。

荒関さん
あとは先ほども申し上げたように我々は利用者さんの通院に同行することがあるんですが、主治医に「眠れないので薬をください」と言うと先生は「いいよ」と薬を処方されることが多いですよね。でもよく記録を見てみると「朝4時までゲームをしていて眠れなかっただけだよね」とか、そういう部分を我々から伝えさせていただければ、薬漬けになってしまうリスクも減らせるわけです。

それと、これは稀なケースですが「処方された薬が合わない」っていう方もいらっしゃるんです。だから例えばうつだと言われて薬を飲んではいるんですけど、日々ここでご本人様の状態や記録を見ていたりすると「双極性障害じゃないか?」っていうこともあるんです。

編集部
確かに、クリニックでの限られた診察時間内で自分の症状や状態を伝えるってなかなか難しいですよね。生活リズムを整えていくなかで、そういったことも一緒に自己理解をどんどん深めていくということですね。

荒関さん
そうです。仰る通り、うつや双極性障害に限らず自分一人で自分の状態を正確に把握することは難しいので、精神保健福祉士を配置して傷病の部分をしっかりコントロールしようと体制を整えています。

そして最後に、これが肝になるんですけど、「こころの振り返りシート」というものです。


気分の変動とか波が必ずあるので、その波を記録していただきます。それがなぜそうなったかとか、それをどうしていくかとかっていうことを毎週取り組んでいるんです。


編集部

なるほど。面白い設問ですね。


荒関さん

やっぱりストレスが溜まってくるじゃないですか。そこには通常状態、警告状態、危険状態というようなグラデーションがあって、危険状態寸前になってバタンと倒れてしまうケースが多いので、その前の警告状態をいかに把握するかというところが大事なんですね。で、その状態をいかにセルフマネジメントするかというところが一番身につけたいポイントなんです。


編集部

そういう意味でも「自己理解」ということがすごく大きなキーワードになっているわけですね。毎日の調子も日々チェックしていくし、週ごとの調子もチェックしていくと。そしてセルフマネジメントができるようになっていく。


荒関さん

そうなんです。なぜうちがここまで自己理解やセルフマネジメントにこだわっているかというと、就労移行支援事業所は今全国で3,300か所ほど存在していて、そのうち2,500~2,600か所をNPOや社会福祉法人が運営して、残りの700か所を企業が運営しているんですね。前者はどちらかというと福祉的要素が強く、症状が重い方々を元気にしようというホスピタリティーに溢れた雰囲気があります。ただ、そこでは就職する方が極端に少ないんです。デイケアや居場所としてはすごく良いけど、就職を目指す方にとってはあまりニーズと合致していない。

逆に、企業の運営する事業所ではどんどん就職させようという動きが強くて、実際に数字としても高い就職者数を出しています。それでも、結局半年で辞めてしまうケースが多い。身体障害の方だと一年間の定着率が80%くらいなんですが、精神障害の方は40%台なんですね。半分以上の方が辞めていってしまうという現状があります。こういった事業所では何をしているかというと、事務の仕事が多いのでパソコンを徹底的にやるんです。だから就職はできるけど、実は就職したあとに働き続けるためのトレーニングをしていなかったっていうケースが多いんですね。

ですので、うちでは仕事のスキルだけではなく生活訓練に力を入れています。段階的にステップを分けて、セルフマネジメントや行動目標を達成できるようになってから、就職活動としてパソコンのスキルを身につけていくという流れです。


編集部

なるほど、職務能力としてのステップアップの前に、まずは生活する力を整えてからということですね。




荒関さん

そうです。まずは土台の、ベースの部分をしっかりとコントロールしていく。先ほどのこころの振り返りノートも含めて、毎週月曜日は1限から4限まで使って、職員とマンツーマンでセルフマネジメントについて取り組んでいます。


編集部

居場所的な側面から生活訓練やセルフマネジメントをして、それからしっかり職務能力も身につけて就労に繋げていこうというところで、すごくバランスが取れていますよね。


荒関さん

そうですね。やはり土台がしっかりしていないと、職務能力を身につけても辞めてしまったり、生活リズムが崩れてしまったりしますから。


あとは利用者さんの状況に合わせて、色々な機関と連携しています。例えば家庭の生活で困っている方には訪問看護を、傷病などで生活が安定しない方にはデイケアを紹介したり、他にも大学と連携して座学を受けたり。失敗してもいいトレーニング施設なんだということで多様な関係機関と連携させていただいています。


編集部

大学とも連携されているんですね!それはなかなか珍しいような。


荒関さん

はい。というのも、発達障害という分野は最近注目され始めたこともあって、大学のスペシャリストの方とアセスメントを取るようにしています。もちろん病院とも連携しますし、プログラムは病院やデイケアとも連携して作っています。


発達障害はよく先天性の凹凸があるなかで凹の部分ばかり取り上げられがちですが、不得意なことがあるのと同じように、人よりも得意な凸の部分があるんです。その部分を大学と病院と連携して可視化し、得意なことを伸ばすプログラムに取り組んでもらっています。そこを企業のニーズとぶつける。


編集部

企業のニーズとぶつける。具体的にはどんなプログラムを行っているんですか?


荒関さん

精神疾患をお持ちの方が取り組んでいるプログラムが授業型の講義だとすると、発達障害をお持ちの方には、企業の特例子会社で行われている実際の業務に取り組んでもらっています。名刺作りだとか、封入作業だとか、組み上げだとかですね。


例えばADHDの方で多動の症状があった場合、接客や配膳、介護などの仕事に向いている場合があるんです。じっとしていられないなら、逆にその部分を活かしてあげるということですね。自閉症の方であれば、こだわっていい形にする、こだわってものを作ることがすごく得意で、ものづくりに強いことがある。というところで、何が苦手で何が得意なのかというところを企業と徹底的に連携して、凸を伸ばしていくことをやっています。


編集部

なるほど。凹凸の凹の部分は向き合って対処できるようにしつつ、凸の部分は伸ばしていく。そして多くの就職先の中から自分の特性にマッチした仕事が選べるということですね。


荒関さん

そうです。これによって、即戦力として働くための訓練にもなります。


編集部

実際、就職先はどのようなところがありますか?


荒関さん

関係企業さんは3,000社ほどあって、大手ですと通信事業者のNT〇さんや、電機メーカーのN〇Cさん、人材紹介のリ〇ルートさん、保険会社の損〇ジャパンさん、お菓子メーカーのカ〇ビーさん、他にもあるんですが、このあたりで。企業さんからの評判も良くて、「もっと人がほしい」と言われています。

企業が求めているのは、まずは出席率が100%で報連相ができるだとか、基本的な部分がちゃんとできる人なんですね。先ほどもお話したようにTODAYではまずそのベースの部分をしっかりやりますので、そこがクリアできればいわゆる普通の人と変わらないんです。あとは、手帳を使ってオープンで就職する場合ですが、自己理解を進めることで自分の要望を自分で伝えることができるようになりますので、企業としてもそこが安心できるポイントだと思います。


編集部

なるほど。確かに、なかなか障害のことについて聞きづらい部分はありますよね。


荒関さん

そうなんです。企業は「聞いていいのかな?」と思っちゃうし、本人は「言ってもいいのかな?」と思ってしまう。僕はそこにうまくいかない原因があると思っています。でも、本人が「自分は環境に慣れることが難しいので、2~3年の長いスパンでの出向なら大丈夫です」とか「疲れやすいので1時間ごとに休憩がほしい」と言えるようになれば、お互いにストレスなく働けますよね。こういったやり取りはオープン就労だからこそできることなので。


編集部

そうですよね。先ほどのお話の中でも出席率100%というキーワードが出てきたり、自分で要望を言えるようになるということだったり、そういうことができるようになるためにどんな工夫をされているんですか?


荒関さん

もちろん日々取り組んでもらっているプログラムの効果でもあると思いますが、実は僕たちがそこまで工夫しているというわけではないんです。気付くと利用者さんが勝手に成長しているんです。まず、ご自身で「どのくらいの期間で就職したいか」というゴールを決めて、それに合わせて自分でペース配分をしてもらう。基本的なルールというか、ステップアップに関しての基準はありますが、僕たちから指示をすることはありません。


よく企業や外部の方がTODAYに来て言われるのは、「誰が職員で誰が利用者なのか一見わからない」と。それくらい距離が近いことが特徴なんですね。お互いが気軽に意見し合えたり、良い相乗効果を生むための人間関係や信頼関係など、過ごしやすい環境づくりは徹底して行っていますね。










現役利用者Aさんに聞く「ぶっちゃけ、就労支援ってどうですか?」


それぞれのプログラムや就職についてお話を伺ったところで、実際にTODAYに通われている利用者さんにもお話を伺いました。

利用者Aさん(以下Aさん)
よろしくお願いします。

編集部
よろしくお願いします。早速ですが、現在は週に何日通所されているんですか?

Aさん
今は週5日フルで通っています。

編集部
フルタイム!すごいですね!初めて通所されてからどれくらい経ちますか?

Aさん
今年の4月から通っているので、そろそろ8か月くらいになりますね。最初は週4日で半日からというスケジュールでした。それから徐々に時間を延ばしたり日数を増やしてたりして、途中で減らした時期もあるんですが、今は週5日、朝から夕方まで活動しています。

編集部
なるほど。ご自身のペースで段階的にステップアップされているんですね。8ヵ月間で、最初の頃に比べて2倍以上も長い時間活動できるようになるって、すごいですね。

こちらの事業所に通ってみようと思ったキッカケはなんですか?

Aさん
そうですね、私はとりあえず就職したいという気持ちがあったんですが、障害を持っているのでどうやって就職活動をしたらいいのかっていうのがわからなくて。そもそも、まともに就職活動もしたことがなかったんです。とにかく働きたいけどよくわからないなという状況の時にネットで色々情報を集めていたら、最終的にはここに辿り着きました。他の事業所にも見学に行ったりして、見比べたりもしたんですね。それでここは雰囲気も明るいし、きれいだし、ということでTODAYに決めました。

編集部
実際に見学に来られる前は、就労移行支援事業所という場所に対してどういうイメージを持たれていましたか?

Aさん
私の場合は、うまくやっていけるかな?っていう不安はありました。人間関係、自分の体調とかですね。ただ、実際に利用してみると自分のペースに合わせてスケジュールを決められるので、そこは安心でした。

編集部
そうですよね。こちらは先ほどお話をお伺いしたときにご自身の申告制というか、ペースを自分で決められると聞いたので、それなら無理せず通えるなと思いました。

1週間の中でこの時間が好き!とか楽しいなっていうプログラムはありますか?

Aさん
月曜日にこころの振り返りっていう時間があって、先週1週間の出来事を振り返って反省したり、今週の計画を立てたり、そういうことを紙に書き出すんですね。それを持って職員さんとマンツーマンでお話をする時間が好きですね。自分のことを喋るのが好きなんですが、その時間は自分のことを喋ってもいい時間なので。

編集部
職員さんと「喋りたい!」と思えるような関係性が築けているんですね。それが一番楽しい時間に挙げられるのは安心できる場所として理想的だと思います。

先ほどのお話の中で、通う前はご自身の体調などについて「やっていけるかな」という不安があったと仰っていましたが、その気持ちが見学をして「これなら大丈夫かも」という気持ちに変化したのはどうしてでしょうか?

Aさん
まず、見学をしたときにプログラムの体験もできたんですね。実際にそのプログラムの講義を受けて楽しかったという体験が大きいかもしれないです。他に見に行った事業所はすごい静かな環境で、ここのような講義という感じではなくて。パソコンの実習がメインって感じだったんですが、TODAYのほうが自分に合っているなと思って。

編集部
静かでパソコンというと、自習室みたいな感じだったんですかね。

Aさん
そうです。みんなが静かにパソコンでカタカタやっていて、あんまりそこにコミュニケーションがあるような感じがしなかったんです。

でも、ここは職員さんも優しかったし、講義形式で色々教えてくれそうだと感じたんです。そういうところが自分のためにもなると思いました。あとはその時の講義の内容がキャリアプランを立てるという内容で、体験者は私以外に2~3人しかいなかったんですが、他の人の発表を聞いて応援したい気持ちになったり、自分も頑張ろうって思えたり、すごく勉強になりました。

編集部
なるほど。コミュニケーションも生まれるし、そういった相乗効果が生まれる環境なんですね。

通所する前と現在で、変わったことはありますか?

Aさん
もともと、人前で発表することが苦手だったんです。でも、ここは質問をするチャンスをくれたり、発表しようかなって思えるような声をかけてくれたり。苦手だけどちょっと一歩前に進んでみようかなと思える環境だと思います。それで質問もできるようになったし、まだちょっと苦手だけど前よりも人前で発表出来るようになりましたし、前よりは少し変われているのかなと思います。

編集部
今もとてもハキハキと分かりやすくお答えいただいているので、もともと自己発信が得意な方なのかなと思っていたんですが、そうではなかったんですね。数か月でここまで変われるというのはとても大きな成長だと思います。

この数か月で大変だったことはありますか?

Aさん
大変だったこと・・・やっぱり体調というか気持ちの面で落ち込んでしまった時があって、どうしようかなって自分でも悩んだんです。そこで、職員さんと月一で面談するモニタリングという時間があるんですが、職員さんに「ちょっと今調子がよくないかもしれないです」と伝えたら、職員さんみんながワーッて来てサポートしてくれて。原因は私の個人的な問題だったんですが、他の利用者さんには伝わらないようにサポートしてくれて、それで持ち直してまた頑張れました。結果的には乗り越えられましたが、そのときは大変でしたね。

編集部
そこでご自身でもSOSを出せるのは素晴らしいですね。またワーッと来てくれる職員さんとの近さというか。

Aさん
これは私の勝手な予想なんですけど、たぶん職員さんの中で情報共有がしっかりされているんですよね。それが大きいのかなと思います。

編集部
支援してくれている方が自分のことをちゃんと知ってくれているっていうことは本当に大事ですよね。職員さんと本当に仲が良いというか、コミュニケーションがたくさん取れるということがわかりました。利用者さん同士はどうですか?

Aさん
連絡先の交換などは原則禁止なんですが、事業所内ではよく交流しています。

編集部
レクリエーションやイベントみたいなものはあるんですか?

Aさん
そうですね。祝日などのお休みを利用して。先日は架空の会社を自分たちで作って、説明会をするっていうイベントをやりました。

編集部
架空の会社!面白いですね。Aさんはどんな会社を作ったんですか?

Aさん
私は求人を作ったんですが、歌舞伎役者の付き添いの求人を作って説明しました。実際に調べたらそういう求人があったんですよ。面白かったので、自分で想像して求人を作って、みんなに発表しました。

編集部
そんなお仕事もあるんですね!知らなかったです(笑)こういうイベントを通して求人や会社について色々知識を得る機会にもなりますし、いいですね。

実際に通われてみて、今は就労移行支援事業所にどういう思いを持っていらっしゃいますか?

Aさん
難しいですね・・・うーん。やっぱりここは就職に向けての通過点なので、ここに来るのが目的ではない、通過点であるべき、というのは思います。就職っていう目標のために、私が利用する、私がしっかり使って、就職につなげていくんだという気持ちがあります。

編集部
なるほど・・・つなげていくっていうイメージ。就職できなかった過去の自分と、仕事をしている未来の自分を、今ここでつなげている。そういうイメージが浮かびました。心地いい居場所に甘んじているだけではいけなくて、通過点であるということを利用者さんから聞けてよかったです。

もしよろしければ、就労移行支援事業所に通えない・なかなか一歩が踏み出せないという方にメッセージをいただけますか?

Aさん
メッセージになるかどうかわからないんですが・・・まず、別に必ず就労移行支援を受けなければいけないってことは無くて。就労移行支援に関わらず、自分のペースで、やりたいっていう気持ちが生まれたら、それをやってみたらいいと思います。やりたいけどどうしよう、就職したいけどどうしたらいいんだろうっていうときは、家族や身近な人に話してみると良いのかなと思います。

編集部
なるほど。まずは自分の困りごとだったり、こうしたい!っていう希望であったり、それを自分の外に出すということですね。確かに、そこから新しいきっかけが生まれそうですね。

最後に、Aさんは今後、どんなことをしたいですか?

Aさん
私は絵を描くのが好きなので、そういう技術を活かせる仕事を目指して頑張っています。仕事として絵が描けて、もしどこかで私の絵を見かけてくれたら嬉しいなと思います。

編集部
素敵ですね!応援しています。ありがとうございました。

取材協力:就労移行支援事業所TODAY


 

 

支援員 阿久津さんに聞く支援のコツ「支援者と当事者の壁を壊そう」

最後に、利用者さんを現場で支える支援員の方にもお話を伺いました。

編集部
就労移行支援事業所の支援員というお仕事は一般的にはあまり知られていないのかなと思うんですが、なぜ阿久津さんはこのお仕事に就こうと思われたんですか?

施設サービス責任者阿久津さん(以下阿久津さん)
私はずっと接客業が好きで、以前はホテルマンやメイクスクールの講師をしていたんです。お客様や生徒と接するということが好きで、人と関わる仕事に就きたいなという気持ちは昔からずっと持ち続けていました。

新卒でとあるホテルに入社したんですが、格式が高いホテルだったので「踏み込んだ接客」というのがなかなかできなかったんですね。例えば、お部屋案内の時に「今日誕生日なんですよ」という情報をお客様からいただいて、支配人に「サプライズでお客様のお祝いをしたいです」と言っても「うちはそういうことはやっていないから」と言われてしまったり。そういうことがよくあって、自分の中でモヤモヤしていたんです。

あとは女性の方だとお分かりいただけると思うんですが、メイクをされるときに嫌いな人や心を許していない人に顔を触られたくないですよね。1対1でメイクをするときは後ろから顔を触ったりするんですが、メイクが始まる前にいかにコミュニケーションをとって、心を開いていただくかというのが面白いなと思ったんです。さらに言うと、もっと踏み込みたいなと思って。メイクをすると顔だけじゃなく心まで気分が変わるというか、生き生きして「元気が出ました」と言ってもらえることがあるので、心まで踏み込んでいきたいなと思ったことがきっかけかもしれません。

編集部
心に踏み込んでいく。なかなか大胆な言葉かと思いますが、人間の心というものをフィールドに仕事にしていきたいという気持ちはどこからきたんでしょうか?

阿久津さん
そうですね。もともと昔から人によく相談をされたりとか、人の話を聞くということが多い人生だったんですね。友達の悩みとか、女性同士の人間関係とか。

私が講師をしていたメイクスクールは高校卒業資格も取れるメイクスクールで、高校生から社会人までいろんな方がいらっしゃったんですね。私は結構派手でやんちゃな子がいたところに所属していて、そのなかでも講師の方はたくさんいるんですが、なぜか皆さん私のところに相談しに来てくれて(笑)

編集部
なるほど、そのメイクスクールには定時制高校としての役割もあったんですね。我々はメンタルヘルスに問題を抱えている方をメンヘラと呼んでいるのですが、そういった方は多かったですかね?

阿久津さん
今考えると何かしらの理由で全日制高校に行けなくて、でも美容も好きで、っていう子が多かったですね。人間関係もあまり得意でないというか、上手くいっていないという子がほとんどでしたね。

編集部
そういった方々がこぞって阿久津さんに相談しに行くという。

阿久津さん
そうですね。相談を受けていたらお昼休憩が無くなっちゃったとか(笑)よくありました。

編集部
大人気ですね(笑)なぜそんな状況になったんでしょう?

阿久津さん
好きっていうと語弊があるかもしれないんですが、人の相談に乗ったり話を聞いたりするのが全く苦じゃないんですね。どちらかというと聞かせて!っていうタイプで。私に話して最後に笑ってくれたり、楽になってくれたらいいなと思っていて。

編集部
なるほど。本当に人と接したり、悩みを聞いたり、コミュニケーションをすることがお好きなんですね。それは昔からですか?

阿久津さん
そうですね。結構昔からそういう気質はありましたね。

編集部
実際、今とてもお話ししやすいなと思います。ご自身が人から相談される理由って何だと思いますか?

阿久津さん
そうですね・・・初めてお会いする方とか利用者さんとか、どういう会話のスピードがいいのかとか、接していくうちに少しずつわかるんですね。「今は体調が悪そうだから話しかけないほうがいいな」とか。どういうテンポやタイミングで接したらいいのかということは常に意識してますね。

編集部
確かに、コミュニケーションにはテンポやタイミングが重要ですよね。多分、人のペースを汲み取ってそのペースに合わせてコミュニケーションを取るのがお上手なんじゃないかと思います。

先ほどホテルのお話の中で「サプライズしたいのにできない」「もっと踏み込んだ接客がしたいのにできない」というフラストレーションみたいなものがあったかと思うんですけど、今のお仕事ではどうですか?

阿久津さん
今の仕事だと、ある意味で「終わり」が無いというか、ここまでしかできない!みたいなラインがわりと無いんじゃないかなと思っています。私たちは9時から18時まで就業しているわけですが、例えば19時でも20時でも必要であればお越しいただいても、お電話していただいても問題ないと思っていますし。

編集部
ホテルと違って、ここまでしか関われないというところはないですよね。

阿久津さん
逆に、利用者さんが「ちょっともうこないでください」っていうラインまで一度踏み込んだりもしますね。それができる仕事ですし、それをしないとお互いの適切な距離感を図ることができないんです。それで「今日はちょっと踏み込み過ぎたな」とか「明日からはこうしていこう」という試行錯誤の中で、相手にとって一番良い距離感の関係を築いて、そのなかで生活や就業のサポートをしています。

編集部
踏み込むというのはかなり難しいお仕事ですよね。例えば「踏み込まれたくない」っていう、支援者に対する不信感を持っている当事者も少なくないと思うんですよ。そういった不信感を持っている当事者の皆さんにはどう踏み込んでいくのでしょうか。

阿久津さん
確かに、症状が決して軽くない方のなかには、私たちにというよりも自分以外の他人に対して不信感が強い方もいらっしゃいます。なので、まずは「安全ですよ」ということをわかってもらえるまでコミュニケーションをしますね。

編集部
安全感や安心感を当事者の方が持てるように、ということですよね。・・・難しいですよね。

阿久津さん
難しいですね・・・。やっぱり色々なトラウマがあって傷ついてしまった方々が多いので、まずは「絶対にあなたを傷つけません、私たちは支援者です」ということを伝えなければならないんです。その伝え方というのは人によって違いますし、距離の縮め方も違います。

編集部
先ほど利用者さんからお話をお伺いしたときに、職員さんとのコミュニケーションについての評価が高かったのでしたが、職員さんの視点としてはいかがですか?

阿久津さん
私たちは信頼関係を築こうと思って毎日やっているので、本当に嬉しいです。

先ほどのお話にもあったように、利用者さんの情報は職員全員で共有しているんですね。職員が誰でもサポートできるように、月に一度のモニタリングの内容もそうですし、日々の状態や支援についても毎日共有しています。それが利用者さんの安心につながっているようで、よかったです。

編集部
利用者さんが本当に楽しそうにお話してくださったので、本当に良い環境なんだなと感じました。このお仕事をされていて、一番やりがいを感じる瞬間はどこでしょうか。

阿久津さん
そうですね。やっぱり日々の変化ですね。通い始めたばかりって皆さん受け身なんですが、あるとき自分から発信してくれるようになるんですね。目を合わせてくれるようになったり、自分から話しかけてくれるようになったり。そういう変化が一番「やった!」と思いますね。

編集部
そうなんですね!勝手に、就職が決まった瞬間かな?と思っていましたが、日々のそういったところにやりがいを感じられるんですね。

阿久津さん
そうですね。例えば以前、5か月通所して就職された方がいたんですが、その方は本当に一日一日少しずつ変化があって。表情や服装、メイク、あとは笑顔が増えたり話しかけてくれる回数が増えたり。その変化を毎日見られるのが嬉しかったですね。

編集部
5か月って短いですよね。その中で毎日成長していくというのはすごいですね!

阿久津さん
短いです。来てすぐの頃はずっと突然泣き出してしまったり、感情のコントロールが難しい方だったんです。最初は本当にかかりっきりで、私たちは「これは長くかかるかな」と思っていたんですが、あっという間でした。

編集部
どのタイミングで劇的な変化が起こったんでしょうか。

阿久津さん
最初は泣いていたらすぐ駆けつけて話を聞いてと対応していたんですが、職員全員で話し合って対応を変えてみたんです。泣いていてもまずは自分で泣き止むまで駆けつけない、ちょっと距離を置こうと。そしたら自分で泣き止んで、自分から「ちょっといいですか」と話しかけてくれて。その日を境にどんどん変わられたと思いますね。

編集部
なるほど。適切な距離感だったんですね。

阿久津さん
そうですね。本当は駆けつけたいけど、グッと我慢してまずは自分で対処してもらう。ご自身で「早く就職したい」とずっと目標を決められていたので、それに合わせてケアの段階も分けていました。

編集部
本人の「早く就職したい」という希望に合わせてケアの仕方も変えると。まさにペース配分ですね。

もしよろしければ、就労移行支援事業所に通いたいけどなかなか踏み出せない方、不安に思っている方へメッセージを頂いてもよろしいですか?

阿久津さん
おそらく、皆さん何かしら生きづらいなと思っていることがあってつらい状態になっていると思うんですが、人によって受けた傷は人によって癒されるということがあると思うんです。人との関係で生まれた傷を、人との関係のなかで癒していく。もちろん、いきなり信用することは難しいと思うんですが・・・居場所といいますか。週5日、いつでも話せる人がいる環境に一度来てみて、いろんな人がいるんだということを感じていただくと良いのかなと思います。

編集部
ありがとうございます。人によって受けた傷は人によって癒される、すごく納得しました。孤独ではなかなか傷は癒せないと思います。

最後に、支援者の「どうしたら支援が上手くいくのか」という悩みに対して、現場で経験されたコツというか、支援哲学がありましたらぜひ。

阿久津さん
コツ・・・逆に教えてほしいんですが・・・(笑)

そうですね・・・毎日利用者さんに関わらせていただいて、私たちは何もしていないと思っています。利用者さんに信頼してもらえると、彼ら彼女らが自主的に成長していくと思うんです。私たちは指示はしていなくて、利用者さんが日々通所していく中で自然に整っていくので。

私たちは支援者と当事者である以前に同じ人間なので、嬉しいことも悲しいこともお互いにそれぞれあります。そこを、「私たちは一緒だよね」ということを認めること、お互いの間に壁をつくらないというか、支援者と当事者の壁を壊すことで変わっていくんじゃないかと思います。

私も、利用者さんから教えてもらうことは日々たくさんあります。人と人との関わりだからこそ、私たちは対等です。

編集部
なるほど。我々もこういった活動をしていく中で、支援者が壁を作ってしまうことは多いと感じています。でも、支援者も当事者も同じ人間であって、そこに信頼関係を築いて支援をするということを実際に現場で活躍している支援者の方から聞けてよかったです。

本日はありがとうございました。

取材協力:就労移行支援事業所TODAY

 

まとめ 就労移行支援を上手く活用するために

以上、三者三様、様々な形で就労移行支援に関わるみなさんのインタビューをまとめさせていただきました。

就労移行支援という制度はまだまだ発展途上の制度です。「正解」がわからない中で、それでもなんとか良い形で制度を発展させようと、多くの方が事業者として、支援員として、また利用者として、この取り組みに参加しています。

それを踏まえた上で、これから制度を活用したいと考える当事者の方は、どうすればより良い支援に関わることができるのでしょうか。

今回の取材で編集部が痛感したことは「とにかく調査が重要だ」ということです。

TODAY事業所代表の荒関さんのお話にあったように、現在、就労移行支援事業所は全国に3300か所も存在します。加えて、それぞれの事業所が異なる個性を持っており、いちがいに「どの事業所が良い」「どの事業所が悪い」と判断することは難しいのではないかと思います。

どの事業所が自分のニーズと合致するのか、当事者の側でもしっかりと事前にリサーチを行い、自分にあった支援を選ぶこと。

それが就労移行支援を上手く活用する上で、最も重要なことかもしれません。


【執筆者】
メンヘラ.jp編集部

【取材協力】
就労移行支援事業所TODAY


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