【要約版】自傷行為に至る要因に関する一研究

コラム リストカット 自傷行為 鏡 元

 

以下は、立正大学心理学部臨床心理学科大学院修士課程において、修士論文として2007年に発表されたものを、学会発表のため要約したものである。

 

Ⅰ.問題

自傷行為は、自分の身体を故意に傷つける行為であり、自傷行為者の数は奈良教育大学の調査によると1999年ごろから統計上は急激に増加したとされているように,年々増加の一途をたどっている。それに伴い自傷行為という言葉は日本国内で氾濫するようになってきた。

こうした現状に伴い、自傷行為の研究は近年増加しており、病態、治療、自傷行為に至る要因の3つに分けることができるが、自傷行為はもともと医学領域の研究分野であった経緯から、自傷行為に至る要因の実証的研究は少ない。

自傷行為に至る要因に関してはDSM‐Ⅳなどでも言及されているように、境界性人格障害と自傷との関連のなかで、共依存と自傷行為の関連が指摘されているが実証的に検証はなされていない。

また、最近では発達障害と自傷行為の関係性も示唆されている。発達障害者における自傷行為に関して、Rohman(1999)は、コミュニケーション障害であり、言葉を持たない発達障害者にとって、相手との意思の疎通の不全による葛藤が自分の内面に向かうために自傷行為が表出するという事例をあげており、自傷行為をコミュニケーション手段として捉えている。こうした自傷行為にいたる過程は発達障害者のみに見られるものではなく、Alderman(1997)は自傷行為の意味・機制のひとつとしてコミュニケーション手段としての自傷行為をあげているが、こうしたコミュニケーションと自傷行為の研究は少ない。

またコミュニケーションが苦手なものがすべて自傷行為を行うわけではない。自傷行為を実行する理由として、柏田(1988)は、事例の分類研究の中で、自傷行為に関する肯定的イメージとの関連をあげているが、これに関する実証的研究は少ない。

 

Ⅱ.研究目的

本研究では自傷行為に至る要因において、自傷行為の定義をFeldman(1988)による「明確な自殺目的を持たずに,意図的に自身の身体の一部に損傷を負わせること」とし、自傷行為にいたる要因に関する有用な知見を得ることによって、自傷行為の治療及び予防のための知見を得ることを目的とした。

そのため、本研究は先行研究において示唆されている共依存と自傷行為、コミュニケーションスキルと自傷行為の関連性および自傷行為者と自傷行為に関して肯定的イメージの関連性を明らかにし、自傷行為に至る要因に関する探索的な研究を行うことを目的とした。

調査に関しては質問紙を使用し、被験者に関しては多数の先行研究の対象となっている大学生男女200名を対象とし、自傷行動の有無、種別を調査するための角丸 (2004)が作成した自傷尺度、コミュニケーションスキルに関して、Goldmans(1980)が作成したソーシャルスキル尺度を使用する。ソーシャルスキルは対人関係を円滑に処理していく能力でありその中核的な要素は対人関係の認知・調整およびコミュニケーションである。よって、自傷行為に影響するコミュニケーションはソーシャルスキルによって測定できると考えられる。

共依存に関しては、四戸(1996)において使用されている共依存尺度を使用し、イメージに関しては自傷行為に関するイメージ尺度を使用する。

先行研究を参照すると、ソーシャルスキルと自傷行為及び自傷行為のイメージと自傷行為、共依存と自傷行為は関連性があると予想される。

 

Ⅲ.研究方法.

1. 被験者:
先行研究において調査対象になっている大学生男女300名

2. 質問紙:
①角丸 (2004)が作成した自傷尺度
②Goldmans(1980)が作成したソーシャルスキル尺度
③四戸(1997)が作成した共依存尺度。
④自傷行為に関するイメージ尺度。

3. 調査期間
2006年11月~12月

 

Ⅳ.結果考察

結果として、有効回答は266名で、うち自傷高群65名、自傷低群は191名であった。次に、各尺度に関して主因子法・Promax回転による因子分析を行い因子分析を行った。

結果、自傷尺度は危険行為衝動因子、攻撃衝動因子、薬物依存因子の3因子に分類することができ、共依存尺度は孤独感因子、他者評価因子、援助欲求因子の3因子に分類し、ソーシャルスキル尺度に関しては、計画性尺度、自己主張尺度、感情理解尺度、問題対処尺度の4因子に分類し、イメージ尺度に関しては、快・不快因子、真面目・不真面目因子の2因子に分類した。

次のこの因子を元に、自傷尺度の因子を基準変数に、その他の変数を説明変数とし、ステップワイズ法を用いて重回帰分析を行ったところ、危険行為衝動因子を基準変数に定めたとき、孤独感因子、計画性因子において正の標準偏回帰係数が有意であり、真面目・不真面目因子、問題対処因子において負の標準偏回帰係数が有意であった。



次に、攻撃衝動因子を基準変数と定めたとき、問題対処因子において負の標準偏回帰係数が有意で援助欲求因子において、正の標準偏回帰係数が有意であった。



また、薬物依存傾向因子を基準変数と定めたときには、標準偏回帰係数は有意とならなかった。

つぎに自傷高群と低群に関してt検定を行ったところ、自傷高群と低群の2群について、共依存尺度では孤独感因子に関しては0.1%水準で有意差が認められ、他者評価因子に関しては1%水準で有意差が認められた。自傷尺度では危険行為衝動因子と攻撃衝動因子において、0.1%水準で有意差が認められ、ソーシャルスキル尺度では問題対処において、5%水準で有意差が認められ、自己主張因子に関しても有意傾向が認められた。イメージ尺度においては両方の因子に1%水準でそれぞれ有意差が見られた。



結果から考察すると、自傷行為に関して共依存、ソーシャルスキル、自傷行為に関する肯定的イメージが関連があると考えられる。

また、これらの3つの要素について、自傷行為者と未行為者の間には明確な差異があることも明らかになった。

この結果より、 共依存、ソーシャルスキル、自傷行為に関する肯定的イメージそれぞれが、自傷行為の要因に関連すること、および自傷行為者と非自傷行為者の間で、自傷行為傾向、共依存、ソーシャルスキル、自傷行為に関する肯定的イメージそれぞれに有意な差が見られるだろうという予測は証明されたと考えられる。

 

Ⅴ.今後の課題

本研究において、共依存、ソーシャルスキル、自傷行為に関する肯定的イメージの3つの変数を使い自傷行為に至る要因に関して探索的な研究を行い、自傷行為の要因に関していくつかの示唆をする事ができたが、 同時に重回帰分析のR2の値などの問題も存在し、本研究では自傷行為に至る要因を完全に解明しているとはいえない。

であるため、自傷行為に至る要因をより精密に解明していくためには、別の変数の導入も検討する必要があると考えられる。

また自傷行為そのものを減少させることと同時に予備軍を減少させていく必要があるため、原因とともに自傷行為についての一般化された統一的発症メカニズムや統一された治療論が存在しているわけではない現状において、自傷行為に関する対応に関しての研究の必要性もあると考えられる。

 

Ⅵ, 参考・引用文献

Walsh,B.W. & Rosen,P.M.(1988) Self Mutilation: Theory Research and Treatment. The Guilford Press.



【執筆者】
鏡 元 さん

【プロフィール】
臨床心理士・国家資格キャリアコンサルタント。

本名 鏡 元(かがみ げん)。通称みらー。

大学院終了後、専門学校の非常勤講師および、高校のスクールカウンセラーを勤め、同時期に教育機関での心理相談員および不登校対策事業の心理相談担当を歴任。

現在は活動領域を青年期支援に移し、若者の就労支援を中心にさまざま分野で働いています。

年間カウンセリングは1000件以上。
「メンヘラ」と一般に言われる、生きづらさを抱えた人たちの相談支援が関心領域。

twitter : @gen_kagami


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1件のコメント

当事者です 返信

この論文自体は心理学の研究成果としては一定の価値があるものなのでしょう。でも、このサイトに載せる意図が全くわかりません。当事者としては、自分の苦しさも専門家にかかればただの数字になってしまうのだということがわかり、見るのもつらいです。そして、先日にアップしたものをご丁寧に要約してまで載せたことで、2回苦しませてくれましたね。あなたのお名前は絶対忘れません。

このサイトで研究成果を誇って今、どんなお気持ちですか?あなたはきっと、私の苦しさも「1名」、他の人の苦しさも「1名」・・・と数字でカウントされているのでしょうね。修士課程では、ご自身の説に箔を付ける有意差が出てさぞ嬉しかったことでしょう。年間1000件もカウンセリングをすれば、データの信頼度もさぞ高いに違いないですね。研究者としての今後のご活躍をお祈り申し上げます。

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