最悪の選択肢に答えを出すこと クローン病闘病記

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「さて、君にはとっても良いニュースと悪いニュースが1つずつある。まず悪いニュース。今から君の手の指の爪を、あるいは足の指の爪を、ペンチで剥がす事になった。気の毒だが、それはもう決まっている事だ。変更はきかない。 次に良い方のニュースだ。剥がされるのが手の爪か足の爪か、それを自由が君に与えられているということだ。さあどちらにする? 10秒のうちに決めてもらいたい。もし自分でどちらか決められなければ、手と足、両方の爪を剥ぐことにする。」

(村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』より)

先日、この本を読んで自分も似た様な環境にいると思った。

AをとるかBをとるかみたいな選択をする事はたくさんあった。どちらも選ぶにしても大なり小なりデメリットが含まれて、それを踏まえて選んできたつもりだけど、今回みたいにそのデメリットが強く意識する事は初めてだった。

自分は今、腸を切って人工肛門もつけるか、入院期間を長引かせるか(でもほぼ確実に手術をしないといけない。)の選択を迫られている。

具体的に自分の状況を説明したい。

自分は25歳の男で今は休職中だが正社員として雇われている。

18歳の頃にクローン病という診断を受けた。クローン病というのは免疫の問題で消化管に潰瘍ができる病気である。原因は不明で発症したら治らない。かかった人は完治ではなく食事を気をつけたり、投薬で炎症を発生させないように治療する。(ちなみにこの状態を寛解と呼び、病気が悪くなった状態を再燃という)

ネットによると10万人の1人の難病らしい。最初は自分が「10万人に1人」であるという事にピンとこなかったが、年を重ねるに連れてそれを実感する事がとても増えた。

まず、どれだけ食べても体重が増えない。大学時代、山本KIDみたいな身体を目指してウェイトトレーニングを励んでいたが結局50kgから体重が増えなかった。後、雨の日、低気圧のせいか分からないがものすごくダルい。そして一番自分って人生詰んでんなーと思ったのが強いお酒(失恋で牛乳とウィスキーを混ぜたやつを家で毎晩一週間ぐらい飲んでた)を飲みすぎたために半年ぐらい大学を休まないと行けなくなった事である。

年を重ねて社会人に近づいてるつれ、なんとなく分かっていた。一般的な社会人として働けば、病気のせいで苦しむ事になるのだと。そしてそこに対してある種半ば絶望していた。絶望したからこそ大学時代はやりたい事を極力やっていた。そしてやりたい事をやっていてもヘタってしまう自分の体にガッカリしていた。

そして大学時代に予期していた事は比較的早く訪れた。社会人に2年目の春、病状が再燃した。最初は便の回数が増え血が混じるようになった。便の回数が増えるにつれ出血も増えて貧血のような状態になった。仕事は簡単には休めないのでそのようなコンディションでミスしたり思ったような結果を出せなかったのが辛かった。

入院してから内科(断食と投薬)の治療を受けた。ここでどういう治療をしたとか説明すると長くなるので省く。薬の副作用で熱が出たり、帯状疱疹ができたりした。 薬が効いてくる兆候があったので退院して社会復帰もした。(すぐ体調悪くなったから3ヶ月でまた入院したけど。)

紆余曲折あったが結論から言うと内科の薬全て使っても寛解導入できなかった。最後の内科治療はステロイドを副作用ギリギリまで使う&断食だった。メンタル的にも身体的にもしんどいので最終手段だと言われ極力避けてきた治療法だった。 何も食べるなと言われてるのにステロイドのせいでお腹がものすごく空く。気分がハイになりすぎて、落ち着かず集中して音楽を一曲聞くことすらできない。話のテンポが違う人を見るだけでイライラする。眠りたくても寝れない。そのせいなのか気持ちはハイなのに気分は落ち込んでいるという、矛盾した状態を経験した。

こんだけしんどい思いをしたのだから寛解に持っていけるはずだと確信していた。これがダメだったら腸を一部切って人工肛門です、っていうのは担当医から聞いていたが、実際そうなるとは思ってもないなかった。

ステロイド&断食が効いてないです。と担当医から言われた時は、えー、まじですかーって感じだった。自分の経験上早く立ち直れる事ほどショックは早く来て、比較的早く忘れる。そして重大な事ほど初期衝動は少なくて、後から長々と苦しむ事になる。そして案の定、事実を受け入れるのにだいぶ時間がかかった。

ステロイドをたくさん飲んでいた(ステロイドは失敗したからといってすぐ飲むのを辞める事はできない。徐々に減らしていく。)のもあるが情緒不安定も相まって自分が直前までどんな気持ちになるか分からなかった。同年代くらいの看護師を見て、何で自分だけこんな目に合わないといけないんだろうと思うと急に涙が止まらなくなったり、(看護師さん対応にかなり困っていた)、暴飲暴食して担当医にやさしく諭されて涙が止まりまくったり、親に何故産む前に出生前診断しなかったのかキレたり。

今はリエゾンさん(余命宣言されたり、手足切断しないといけなかったりする患者のケアをする人。ざっくり言うと話聞く専門の看護師)を紹介してもらえたり、ステロイドの量が減ったりして情緒は安定してると思う。飽くまで今は、だけど。

今、断食3ヶ月目である。今選択肢を迫られている。 選択肢は2つ

①ほぼダメ元に近い薬を試す。しかしそれが効いているかに2ヶ月要する。つまり断食と入院をもう2ヶ月しないといけない。しかもその上で外科手術する場合、そっちに2ヶ月かかるので結果半年ぐらい入院する事になる

②外科手術にそのまま踏み切る。問題なければ2ヶ月で退院できる。

最初は後者の方に圧倒的に気持ちが傾いていた。25歳の自分に「ダメ元」のために2ヶ月無駄にする価値はないと思っていた。

しかし、外科手術のデメリットをきちんと理解するにつれ決心は揺らぎつつある。

腸を切断するという事は人工の手でつないで腸の縫うという事であり、そこがほどけると腸の菌が身体中にばら撒かれ最悪死ぬ事になる(腹膜炎)と、或いはそれを繰り返すと腸閉塞が起こって腸が使えなくなり一生入院生活。そしてクローン病の人は腸が弱くそれになりやすい。

あなたが60歳だったらすぐに外科に踏み切っても良いと思います。でもまだ25歳ですよ。生涯背負う事そういったリスクを背負う事になります。今の辛さはあなたにしかわかりませんがもう少しゆっくり決断したほうがいいと思いますと。

今の状況では外科手術は仕方ないと思っている。ただ内科をやり切ってないのに踏み切ってもいいのか。悪運の塊みたいな自分なのでどうせ腹膜炎やらは起こるだろう。

将来、死にかける時に今内科でやりきらなかった事を後悔しないのか。そう考えると「ダメ元」の価値も充分あるのではないか。

後、そもそも会社が待ってくれるかという所もある。会社は病気に理解を示してくれて(なんていい会社なのだ!このご時世に。)、半年の休職を認めてくれたが、内科でやりきるという選択肢を取ると確実に間に合わない。ダメ元の価値は今の会社を捨てるほどはない。会社に今休職延長を申し出てるがまだ返事が帰ってこない。

今は実利をとるか納得感をとるか。今ものすごく悩んでいる。ホリエモンの本に「悩む事はしない。常に合理的に動くべき。」とあったがそれは重大な事であればあるほど容易い事ではないのを実感している。

最初の村上春樹の本に出てくる爪の話には続きがある。あの話は、登場人物が新入社員研修のセミナーで毎回する話で実際に1人選んで選択を迫るらしい。
「『足にします』とだいたい8秒目でそいつは言う。『いいよ。足で決まりだ。今からこいつで君の爪を剥ぐ事にする。でもその前に、ひとつ教えて欲しい。なぜ手じゃなくて足にしたんだろう?』おれは尋ねる。相手はこう言う。『わかりません。どっちもたぶん同じくらい痛いと思います。でもどちらか選ばなくちゃならないから、しかたなく足を選んだだけです。』俺はそいつに向かって温かく拍手をし、そして言う『本物の人生にようこそ』ってな。」

村上春樹自身がこの話にどんな意味を込めたのかはっきりは分からない。でも僕はこの話にシンパシーを感じた。実家を出て一人暮らしを始めてからできる限り全ての自分で決めてきた。なぜなら自分の人生だから。ただ今回ほど捨てる重みを感じて吟味をする経験はなかった。

そもそもどちらかの爪を剥がないといけない前提、その決断を10秒でしないと両方の爪を剥がないといけない状況。

不十分で不公平な状況で答えを出すからこそ本物の人生を味わえるのではないか。彼が言いたいのがそういう事であれば、僕の人生はどちらを選んでもより「本物」になるはずだ。



【執筆者】
クローン病日記 さん

【プロフィール】
25歳、男性。
難病であるクローン病により現在入院中。

twitter : @ibdcrohnmydaily


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